殺人鬼。/ページ1/時雨 ページ6
鉄を噛み締めたような何とも言えない匂いの中、1人。笑みを浮かべる者あり。
周りを見渡すも誰1人として、まともな人間はいない。0だ。全員、異常だった。
彼は巷で話題の殺人鬼だった。
全国で指名手配だなんて、とっくの昔にすませたこと。あの時の切羽詰まった空気なんて忘れてしまっていた。
彼は非常に頭が良かった。
だから今まで、数々の命をその手で握り潰しみても誰も何も気がつかないわけだ。トリックは様々だがとても普通の人間が考えつくような考えではないことを承知願いたい。
彼は殺人が好きではない。
れっきとした理由もちゃんとある。彼は殺人が好きなのではない、ではなぜ殺すのか。皆が問いたい部分はそこだろう。
人は時に心を奪われる作品がある。それは絵画だったり音楽だったり花だったり。ジャンルは異なっていたとしても理由は同じだ。《魅力を感じたから》
彼もその仲間だ。人が死に至る時に美学があると感じだのだ。魅力を感じたのだ。ジャンルが突飛なだけであり、魅力を感じ、心を奪われ、夢中になったのには変わりない。
生きている人間に興味がないわけではなかった。興味はあった。幼い時には親しい友人もいた。笑って過ごした記憶が未だかすかに彼の脳に染み付いていた。
だが、いつからだろうか。死んだ人間なんかが美しいと感じるようになったのは。それを突き止めるため、自分の欲求を満たすため。今日も腕を振るうのだ。
誰にも見られることなく、寂しく終わってゆくこの時はいつになっても好きになれるものではない。どうも、慣れないのであった。
今日もいつもと変わらぬ日々のレールを歩くのかとため息をつきながら私物をガチャガチャと黒いバックに雑に詰め込んだ。
その瞬間は突然訪れる。
生きた人間はこの場に、自分以外、いない、いるはずがないと思い込んでいた自分の予想を見事に覆したのだ。
薄汚い扉をギィギィと音を立てて出てきたのは、非常に賢い彼でも予想だにしなかった事。
ピンク色のふわりとしたガーゼを身につけた14、5くらいの少女だったのだ。
血だらけの人間を見てもドラマみたく甲高い悲鳴をもあげず、そっと見下ろした。吐き気が思わずしてしまいそうな空気をも口や鼻を押さえることなくただ佇む姿に彼は驚いた。
そして、ゆっくりと開く唇は彼の目をぐんと強く惹きつけるものだった。
「私も殺すの?」
その強い眼差しに彼は何一つ言葉を発することができなかった。
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作者名:文芸部 x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年10月30日 20時