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「依頼人は望月史織」
翌朝、海は依頼書をみんなに見せながら説明を始めた。
「一週間ほど前から、誰かに後をつけられている気がしていたらしい。そして一昨日、手紙をバッグに入れられた」
手紙には『好きです』と書かれており、以前にもストーカー被害にあったことがあると言う依頼人の史織は、怖くなってボディガードを頼んできたということだった。
「自宅から仕事場までの送り迎えと、外出時のケア。この案件は祐基が担当。設定は恋人」
「海、こいつが近くにおるほうがむしろ危ないと思うけど」
「依頼人に手出したりしないよ。仕事なんだから」
晃一の忠告を祐基はきっぱりと否定した。
祐基は本屋に併設されたカフェにいた。
洋書や写真集などアート系の本が中心の、おしゃれなブックカフェだ。
そこで史織は働いていた。
史織はテーブルに残された本を手に取り、本棚の上の棚に戻そうとしている。
しかし、背伸びしても届かない。
祐基はさっと立ち上がり、史織の手から本をとると棚に入れてやった。
「……ありがと」
「終わるまで、待ってるから」
祐基は史織の頭をポンと叩くと、その場を離れた。
「ちょっと!今の見ました?」
少し離れた席にいるAが、晃一にこそこそと小声で尋ねる。
「見たわよ!やらしい!」
「頭さわる必然性、まったくないですよね?」
「演技過剰やねん、おまえは!」
ふたりのやりとりはイヤホンマイクを通じて、しっかり祐基に聞こえている。
「普段の女の子と接するときと同じようにしてるだけだよ」
本棚の本を選んでいるふりをしていた祐基は、小声で言った。
「普段からあんなんなんか、おまえは!」
「晃一さんも由貴さんにやってみたら?」
「桐原さんの頭をポンポン……?」
晃一がひとりで妄想の世界に入ってしまったので、祐基もAも放っておいた。
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作者名:MaRU | 作成日時:2018年4月26日 0時