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海は海沿いの道に佇んでいた。
対岸にはお台場の開発された高層ビル群があるが、こちら側には木造の古い民家や商店街が並んでいる。
「海」
「どうした?」
「瞳子さんにおつかい頼まれて。何見てたんだよ?」
海の様子が気になっていた祐基は、自然を装い、語りかける。
「……街の歴史。この街ができるまでに、どれだけの人々の、どれだけの想いがあったんだろうって」
「面白いよね、こうやって見ていると、新しいところと昔ながらの街並みが同居してて。あの辺、再開発が始まるんだよね」
「また景色が変わるな」
ふたりはしばらく無言で景色を見ていた。
「海って、ずっとここらなの?」
「そうだよ。ずっと父さんとふたりで住んでた。弁護士なんだけど、お金にならない仕事ばっかりしてたな。すぐ依頼人に入れ込んじゃうんだよ。どんなに難しい状況でも、『大丈夫です 、一緒にがんばりましょう』って」
「カッコいいんだ」
「ぜーんぜん。いつもよれよれのシャツ着て、髪も寝癖のままで、外で会うの恥ずかしかった。あの頃は俺も子どもだったから、ひどいこといっぱい言った。今ならどんなひどい格好だって構わないのに。尊敬してるって、言ってあげられるのに」
海は遠い目で海を見つめている。
「海のお父さんって……」
「事故で死んだ。昔の話だよ。もう一四年になる」
そのとき以来、海はひとりぼっちになってしまったという。
「でも寂しいと思ったことないよ。会社に来れば、毎日騒がしいし」
「……海、ちゃんと頼ってよ、俺たちのこと。何かあったときは必ず」
祐基は真面目な顔で言うと、海は「ありがとう」とほほえんだ。
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作者名:MaRU | 作成日時:2018年4月26日 0時