切っ掛け ページ8
パン、と短く鋭い柏手を、審神者は打った
その目には、先程までのふざけた様子など微塵もなく、ただひたすらに引き込まれそうな、そんな目があった
これには堀川と物吉、宗三は反射的に膝をつき、頭を下げてしまう
白山は何かを思い出したかのように、頭を抱えて踞る
「やめ、どうし、て。お願い、します。ある、じさ、ま、もう、しんでしま……折れて……！」
「ごめんなさい……ごめんなさい、主さん、ごめんなさい……」
「もう、もうやめてくださ……」
３人が口々に何かにひたすら懇願していた
宗三は無言で、考えることを拒否し、ただそこに跪くだけであった
そんな中、大包平だけは震えながらも刀に手をかけていた
「三日月」
「……ここに」
審神者が口を開くと、大包平は少しだけ刀身を抜く
「白山、だっけ。あの子は何かあるの？」
「そうだな……」
三日月は横にいる則宗を軽く睨み付ける
則宗はそんな三日月を睨み返す
だが視線を交わした直後に、三日月はまるで新人に説明するかのような言葉で再び話す
「剣というものは、神技と呼ばれる力を持つ。未だ確認されているのは白山のみだが……あの者は治癒の力を持った刀剣だ」
「なるほど。ということはそれをやらせなかった、とか？」
「……察しがいいな、じじいは苦手だ」
苦笑する三日月に、審神者はにっと笑う
それから刀身を覗かせている大包平に言葉を投げ掛ける
「貴方は、素敵な人ね」
その言葉に、何かが切れた大包平は抜刀し、審神者に刃を向けるが、それを阻んだのは則宗であった
三日月を押し退け、審神者を守るために
それこそも演技であると、則宗は信じたかった
薄々と、この審神者が前の審神者でないとは思っている
先ほどからの情報は、確実に違和感を抱くもの
だからこそ、体は勝手に動いた
もし、この人が本当に違うのなら
自分たちは何の罪もない人間を殺すことになる
だが、この誇り高い刀に背負わせる訳にはいかない
罪を背負うのであるのなら
(人によって嘘から生み出された、俺のような刀の仕事だろうよ)
哀しそうに笑う則宗
大包平は気付かない
怒りに身を任せている為だ
だから紡ぐ
今ここにある、確かな彼の行動を
「貴方も怖いでしょうに。他人を守るために動けるのは、本当に素敵な人」
その言葉で
何かが動き出す
大包平は刀に込める力を、無意識に緩めてしまう
今この人間は、本当に自分の主なのだろうかと
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作者名：とあるさにわ | 作成日時：2022年8月2日 0時
