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残った森本とカッチリと目が合う。ドアノブにかかった手を引くか、押すか。
間違いなく押すべきだと押した。
「森本さん。」
玄関を出て背面でドアを閉める。オートロックなことを忘れていたけど、それを気にする雰囲気じゃない。
「伊藤には注意してください。」
「それはわかりました。永久雇用契約についてが知りたい。」
「名前の通りです。基本料金と家政婦ごとに設定された料金を支払うことで死ぬまで自分のものにできる。要らなくなったら好きに捨てられる。最も大きな取引です。でもユウはそれを望みません。たとえあなたでも。」
ならそれで解放しようという考えを先読みされた。森本の表情は伊藤が去ってもなお厳しい。ユウさんが心配していた意味がわかる。
「ユウさんは伊藤を憎んでいますか？」
「憎んでいないとも言えません。私はユウと伊藤の接点は知らないんです。ジェシーさん、しばらくはユウのことをしっかり見ておいてください。」
伝えるべきことは伝えたと森本が踵を返す。言いたいことだけ言ってこっちの言葉に耳を貸さないのは森本の悪いところだ。
本来そんなに余裕がある人でもないのかなと思うけど。
「あなたはどうするんですか。ユウさんが心配していました。いつか壊れる気がするって。」
立ち止まった森本が握り拳を作る。
「そんな心配をされる資格なんて、俺にはないですよ。」
森本の声が揺れていた。程よく鍛えられて盛り上がった肩でも支えきれない何かがのし掛かって森本を沈めているように見えた。
「失礼します。」
「待ってください！」
突き動かされるように声が出ていた。それを無視して進む森本の肩に手をかける。それでも森本は振り向かない。
「ありますよ、資格。本当に心配してるんだから、ちゃんと受け取ってください。」
「、、どんな顔で？」
涙で縁取られた赤い目がこちらを向く。下頬が震えて、弱々しい顔をしていた。過去の失敗を反省しているのかもしれない。謝り方がわからない子どもみたいだ。
「その顔で良いと思います。そっちの森本さんをユウさんは好きなんだと思います。なんやかんや。」
「、、ありがとうございます。」
心を落ち着かせるように長い瞬きをした森本は、ペチペチと頬を叩いてキラッと笑った。
「心配かけない程度に仕事を頑張ります。」
「そうしてください。」
「では今度こそ失礼します。」
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作者名：久遠さん
| 作成日時：2021年9月19日 0時
