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それから北斗とユウはここで練習をするようになった。
一休みをするときは必ずこのベンチに座って何気ない話をして笑いあった。
空いた右側、その北斗の姿を思い浮かべながらユウは足をブラつかせた。
北斗と共に逃げ出そう。
坂口の提案だった。
借金は2人合わせて完済できているはず。時を待てば会社はボロを出して警察も動き始めると。
「ユウさんお待たせ。」
「坂口さん。」
坂口に呼ばれてユウが振り返る。暗い階段を上って坂口が現れた。
ユウは目を半月にして影となる坂口の背後を捉えた。
ただ影となるその場所を。
「そっか、、、いないんですね。」
「死人は連れて来られないから。でもすぐ会えるよ。
規則3、外出時は会社の車を利用または運転手を同伴させること。
破ったからさ、F18は返済の意思がないと見なされる。全然破んないから誘ってみた。」
坂口は眉を掻きながら伊藤に似たVの字の微笑みをユウの顔に近づけた。ユウは表情を変えない。
「知ってたよ。」
ユウの言葉に坂口の微笑みが消える。瞳孔は開かれ頬は硬直した。
「北斗はね、"返して"じゃなくて"また作って"って言うと思う。
警察だってそう簡単に動いてくれないって知ってる。」
北斗が連れ去られてからユウは警察を頼ったことがあった。しかし途中で相手にされなくなってしまった。それは利用者の中に警察関係者がいるからだと、ユウはこの会社に来てから知っていた。
「坂口さんもっと変なこと言ってたよ。でも1番はジェシーさんが止めてくれなかった。
それってなんでだと思う?」
坂口が口をハクハクとさせて、黒目を右へと動かす。目尻まで動いたそれは限界を突破しようとさらに右へと進もうとする。
坂口が見ようとするその先、階段からは伊藤が姿を現した。
腹の前で縦にパン、、パン、、と拍手をしている。ユウが目を細めてカリッと爪がベンチの表面を削る。
「私がルイス様に何かしら話をしていると思った。ということですね。」
「ジェシーさんなら何も会社から連絡がないことを怪しんで引き留めてくれる。でもそれがないってことは、あんたが絡んでる。」
「止めてくれるだなんて、ずいぶん大事にされている自覚があるようですね?」
坂口を押し退けて伊藤がユウの前に立ちはだかる。
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作者名:久遠さん | 作成日時:2021年9月19日 0時