リライト 2 (ページ38)

今日:16 hit、昨日:3 hit、合計:76,809 hit

ページページ38

ジェシー

「上層部からの詰問を終えて、翌朝にユウの家のポストにペンダントを入れたんです。」

車内に救いようがないほど重たい空気と男3人がすすり泣く声が充満する。

火傷をしてしまうほど胸がチリチリと熱くなって喉が絞まっていく。初めて経験するこの苦しさが怒りなのか悲しみなのかわからなかった。

ハンカチを取り出して両目を覆った京本がはぁ、と息を吐いて、続きを話せない森本に代わる。

「するとユウが会社に乗り込んで来たんだ。ペンダントを握って。」

ーーーーーー
No side

霊安室と呼ぶには弔いの気持ちがこもっていない暗室に、京本は昨夜からずっと引きこもっていた。

京本がこれほど心を病ませるのを見たことがない他の者は、「ナナセに傷1つつけるな。」という無茶苦茶な指示にも従うしかなかった。

美しいままのナナセの頬へと指を滑らせる。

伊藤の企みにもっと早く気づいていれば、ナナセの死を防げたものを。

「ごめんな、俺のせいで。」

変な借金取りに追われるくらいなら確実に返せるここの方が合理的だとナナセは京本に話していた。

本当はそれほどポジティブに考えられる子ではないのにそういう考えを提示してくれたのが京本は嬉しかったのだ。このシステムの中で自分なりに希望を与えられるやり方を見いだせないかと活力をくれた。

森本も京本も、だからナナセに惹かれた。

唯一明るさをもって働こうともがくナナセは、自分達の仕事を肯定してくれる存在だった。

絶望するほどではないと思わせてくれた。希望をもって働く者がいる。ならば増やすこともできると気づかせてくれた。

そんなナナセには、借金を返済して外に出て成功してほしかった。

成し遂げられる子はナナセしかいない。

それができれば他の家政婦も考えが変わるかもしれないと。

この強い想いを伊藤に見破られてしまった。

希望は潰えた。

自分が慕ってしまったばかりに、未来ある青年は首を切った。自分を恨みながら。

京本を襲うのは喪失感よりもたちの悪いものであった。

頭の中は"自分のせいでナナセが死んだ"と埋め尽くされ、制御できないほど黒いものが心に溢れていた。

恐らく京本は死んでいただろう。

無遠慮に扉を開けられなければ。

「大変です！」

父親の腹心で今は京本に付き従う高崎が京本の体を揺すった。