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No side
進行方向を広々とフロントガラス越しに見られる。助手席に座るのに慣れずにユウは落ち着かずにいた。
それだけではない。森本とは違う坂口の運転はゆったりしているように思う。地面の上を滑っていくような森本の運転とは大違いだ。
下手というわけでもないのだが、マニュアルを見せられているようでユウは余計にソワソワした。
「ねぇ坂口さん、森本はどうしてる？」
「会社の車返さずにいるみたいですよ。」
「それって許されるの？」
「普通なら怒られますけど、会社はそれどころじゃないですよ。京本さんが不在になって大変です。伊藤は嫌われてますけど、力はあるので。」
「そうなんだ。僕も伊藤嫌い。京本さんは、、、信じてたんだけどな。嫌な人だけど優しいとこもあるって。」
シートベルトを握ったユウが頭をコツンと車に預ける。眉を掻いて困った顔をして坂口は慰めるようにユウの太ももに手を伸ばした。
「森本なんか笑ってたのかな。」
「そういうの考えるのやめましょう。今はこの混乱に乗じるだけです。」
「大丈夫なの？坂口さんは。」
「言ったでしょ？反旗翻さないと俺、京本潰しのためにユウさん殺さないといけなくなるって。」
「ありがとう、助けてくれて。」
自分の太ももに置かれている坂口の手の甲に手を重ねる。赤信号で車を一時停止し、坂口がユウのペンダントに触れる。メダル型のトップを裏返した。
現れる北斗七星。
坂口はそれを親指でなぞった。
「もうすぐ会えるよ。」
子を身ごもる夫婦のように穏やかな雰囲気がユウと坂口を包む。
「北斗も騙されてたんだよね？一緒に逃げるって？」
「うん。早くユウさんに会いたいって。」
坂口がユウの前に現れたあの朝、死んだと伝えられたナナセ、つまり北斗が実は生きていると伝えられた。
契約が決まった永久雇用を拒んで伊藤に指導されたと。伊藤が北斗を瀕死までいたぶり続け救急搬送されたそうだ。気を失う直前に坂口にペンダントを託したという。
心肺停止に陥り伊藤にバレる前にペンダントを届けたが戻ったときには奇跡的に復活していたらしい。
遺体を直接見ていないユウは坂口の苦しそうな表情からその言葉を信じる他無かった。
「あ、青だよ。」
「おっと、と坂口がペンダントを離す。ハンドルを握って発車させた。」
ユウはペンダントを胸に当てるように握って静かに息を吐いた。
「俺も早く会いたい、、北斗。」
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作者名：久遠さん
| 作成日時：2021年9月19日 0時
