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「樹は黙ってろ。俺の仕事だ。」
利益をストイックに追求する深澤はこの点情がない。身を削って得る情報だからこそこだわっていかなくてはならないのだ。
「他にある？」
「それは、、。」
深澤が腕を組んで視線を遠くする。
「ふーん、、。」
空気が張り詰めた。交渉は何度も経験している京本だが今回は相手が悪い。生かすも殺すも全てが深澤に握られている。京本が出せる交換条件がない上に深澤は冷淡だ。
「あんたに利益しかないよな。自分の父親の会社で好き勝手やってる奴ら潰せてユウとナナセを守れる。それってどうなの？
樹と俺をここまでおびき寄せて思い通り動かしてきたわけだけど、最後に来てそれはちょっとね。ナナセとユウなんて面白くて世間は食いつくでしょ。」
「師匠待ってください。ナナセとユウに面白いことなんてありました？」
「そう易々と樹に全部渡すわけ無いでしょ？」
「っ、」
田中の顔が苦虫を噛み潰したようにしかめられた。
「もう1つの顧客リストを持ってきてよ。買い手がいるだろ。」
「俺にアクセス権はない。」
「こっちも命張って調べてあげたんだよ。」
京本の返事はない。追い出された京本が深澤の言う臓器売買リストを入手するのはリスクが高すぎるのだ。
「いい加減にしてください！」
緊迫した沈黙を森本がクラクションと共に切り裂いた。
「なに？ワンちゃん。」
「森本です！今回の話は無しです。どうぞ好きに記事にしてお金儲けをして下さい。」
「棘のある言い方だね。」
深澤が座り直して森本の方を向く。京本が森本を制止したが、もう止まれないらしい。森本が深澤へ胸を張って、ビリビリと2人の間に稲妻が見えた。
「だってそうじゃないですか。何年京本さんがあの会社で戦ってきたと思ってるんですか！どれだけ自分を犠牲にして人守ってきたと思ってんだよ！裏切りたくないもん裏切って！1人でここまでやったんですよ！」
「俺に同情しろって？」
「そうじゃないです。、、、救うべき人を救えてないって言ってるんです。」
森本が深澤に肘掛けにつくほど頭を下げた。
「条件を飲んでください。」
森本の声は思い詰め、背中は震えている。
「やめろよ、ワンちゃん。」
「京本さんにこれ以上の傷を負わせたくないんです。ユウとナナセを傷つけたくないんです。未来を守らなきゃいけない！それが俺の仕事なんです！
だから、、お願いします。」
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作者名：久遠さん
| 作成日時：2021年9月19日 0時
