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京本

大きなホールの中心で、緑の蝶ネクタイをつけた慎太郎がピアノで音を奏でる。

活発で素直な音色の中には繊細さや尊さが溶けていて慎太郎らしい。

羨ましかった。

直前まで緊張して震える。と俺に泣きついていたのに、今は堂々と表現できてる。

きっと賞を獲るのだろうな。

ママはなんて言うだろう。

どうして俺はバイオリンが下手くそなのかと慎太郎と比較して冷たくされるのだろうか。

ママ、俺はバイオリンなんてやりたくないんだよ。

歌を歌いたい。

好きなことを選べた慎太郎はあんなにも輝いているのに。

幼かった俺は、ただジーッと慎太郎の姿を焼き付ける事しかしていなかった。

慎「きょも～！！」

発表会を終えて俺に駆け寄ってきた慎太郎の手にはやはり賞状が握られていて、褒めて欲しげに俺に見せてくる。

京「頑張ったね！さすが慎太郎！もう自慢の弟だよ！」

森「えへへ！きょもが大丈夫っておまじないしてくれたからだよ！」

羨ましかっただけで憎んだことなんてない。

俺は慎太郎が大好きで、誇りだった。

俺だって絶対好きなことで輝いてやるって意気込ませてくれる存在。

チャンスさえ掴めれば俺も。

でも待ち望んでいたそれは、絶対的な両親の前で潰えて俺のもとに届きやしなかった。