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その日も突然だった。
何度か頻繁にユンギさんが来るようになって。今日は少し遅い時間にやってきた。まだ食事をとっていないと言うからいつものように一緒に食べていて、その時に唐突にユンギさんが口にした言葉。
「なぁ…」
「はい」
「好きって言ったらどうする?」
あまりにも突然すぎる言葉に思考が止まる。
今まではこうやってぽつりと話し始める内容はユンギさんの内情だった。それが全く違う内容で驚く。なんて答えようと考えて、素直に一番最初に思ったことを口にした。
「…それは本当に好きですか?って聞きます」
「なんだよ、それ」
「ユンギさんはずっとわたしに、わたしの声が癒されるとか、わたしに会ったら安心するとか、よく眠れるって言うじゃないんですか」
「全部本当のことだ」
「はい、それは疑ってません。でも、それと好きとは違うと思います」
わたしの言葉に今度はユンギさんが黙る。何か考えているようだったし、わたしの言葉に納得いかないようだった。だからわたしも黙ってユンギさんの次の言葉を待つ。
「…でも、Aを愛しいとも思う」
「ありがとうございます。でもそれは…なんていうか、母親とかに向ける愛情と一緒なんじゃないですか?」
「そんなもんか?」
「わたしはユンギさんじゃないので、ユンギさんの本当の気持ちは分かりません。でもきっと男女間の好きとかと違うと思います。ただ偉そうなこと言ってわたしもそんな経験があるわけではないので、正しいとは限りませんが」
「じゃあやっぱり俺、Aが好きだわ」
「ユンギさん…」
わたしの言葉にあっけらかんとそんなことを言うユンギさんに絶句してしまう。そんな簡単に納得してしまっていいことではないと思う。なのにユンギさんはわたしの気持ちなんてお構えなしに、いつものように自分の気持ちをストレートにぶつけてくる。
「Aと一緒にいたい、Aに会いたい、Aに触れたい、Aに俺の名前を呼ばれたいって思うのは好きとは違うわけ?」
「―――っ……」
真っ直ぐにわたしへ向けてくる視線、真剣に伝えられる真っ直ぐな言葉。
絶句したままのわたしは更に何も言えなくて。そんな熱い視線でわたしを見ないで欲しい。
「照れたの?」
「だ、って…」
「ねぇ違う?」
わたしが何も言えないでいるのを見て楽しそうに笑っていた。
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涼音1006(プロフ) - 藍さまのお話を読むと、しっとりした空気を感じたり、優しいメロディーが聞こえてくるようでとても心地良いです。1日の終わりにベッドの上でゆっくりと読み返すのが楽しみです。これからも応援しております!お身体にきをつけて下さい(*^^*) (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
涼音1006(プロフ) - 藍さまはじめまして!「キミと奏でる〜」のキラピュアなユンギ氏と(←言い方)、「ひと夏〜」のチャラ甘で砂糖増量(←言い方!)なユンギ氏が最高すぎて、ここ数日で一気読みさせて頂きました♪続→→ (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 天然記念物さん» こちらこそ素敵なコメントありがとうございます。1番だなんて、そんな恐れ多いお言葉!嬉しい限りです。次回もキュンキュンできるような作品をお届けできるよう頑張ります。 (2018年8月20日 23時) (レス) id: 7c0b28e720 (このIDを非表示/違反報告)
天然記念物(プロフ) - とても面白かったです。今まで読んだ中で私的に1番キュンキュンしました!素敵な作品をありがとうございました。次回の作品も楽しみにしてます。 (2018年8月20日 22時) (レス) id: 70eef4ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藍 | 作成日時:2018年8月12日 12時