9。 ページ9
.
『これ、私の連絡先です』
Aさんが渡してきた紙切れには、番号が書いてあった。
『あとで連絡してください、待ってます』
どうしてこの人は、会って数分しか経たない見ず知らずの俺にこんな親切に…
『私の友達骨折して入院してるんです、今からお見舞い行かないと…』
慌ただしく席を立ったAさんを引き止めることはできなかった。
手のひらにある番号を、しばらく見つめていた。
.
それから俺は病室に戻り、母さんに話した。
倒れた時に強く頭を打ったらしく、
今までの記憶がない、と。
自分のことや母さんのことはわかるけど、これまで自分が誰とどんな風に、どんな場所で毎日を過ごしていたのかはわからない、と。
もう一度脳の検査をしてもらい、
異常がなかった俺は
一時的な記憶喪失ということになった。
ふとした拍子に記憶が戻ることもあると言われ、母さんはホッとした顔を見せた。
.
まだ夢の中にいるようだけど、この世界に対して半信半疑ではいるけど、
俺はアイドルではないクォンスニョンとして生活することになった。
.
.
.
『スニョン!記憶喪失ってまじ!?倒れて頭打ったって聞いたけどもう大丈夫なのか!?』
母さんに案内されてやって来たこっちの世界の俺が通う大学で、親しげに話しかけてくるひとりの男に出会った。
「…あぁ、うん、えっと、」
当然、名前は知らない。
顔もわからない。
たぶんコイツは俺の友達。
『スニョン〜〜〜!!!!』
しばらくすると少し遠くから俺の名前を叫ぶ集団がこっちへ走ってくるのが見えた。
『おまえ記憶喪失だって!?何かわかんないことあれば全部教えるから聞けよ!』
『なあ俺のこと覚えてる!?名前は!?忘れちゃった!?』
『バイトとか平気なの?支障ない??』
いっぺんに色々なことを勢いよく聞かれたせいで適当に腰掛けていたベンチごと後ろに倒れそうになった。そして一瞬にして俺の周りは、たぶん俺の友達でいっぱいになった。
「…俺、まじでなんも覚えてねえんだ!だから名前も、その、とにかく何もわかんねえ!悪い!」
俺が一言そういうと、全員口を閉じた。
少しの沈黙が続いたあと、
ひとりのやつが自己紹介を始めた。
そいつに続くように全員が、俺とは何をキッカケに仲良くなったのか、俺はどんな人だったか、ひとりひとり丁寧に話してくれた。
927人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽん - 初めまして◡̈⃝︎ホシを推していて、ホシが好きでこちらの小説を読んだのですが、感動しました。最後のシーン涙が出ました。沢山ある小説の中でこの作品が一番好きです!他の作品も読みたいです。ありがとうございました ; ; (2022年8月20日 15時) (レス) @page36 id: 33f90bf03f (このIDを非表示/違反報告)
じゅな(プロフ) - こんにちは。お久しぶりです^_^この物語に感動いたしましたものです。ストーリーと言い、なんといい、ほんとに作者様の才能がもう…(*´ω`*) 最後には感動して涙が出てしまいました。これからも応援してします!!頑張ってください^_^ (2020年12月26日 14時) (レス) id: c9ab294052 (このIDを非表示/違反報告)
ままむの盗賊 - させられました。私ももう1人の平行世界の自分がいるかなとか思ったり。面白かったです! (2020年12月10日 1時) (レス) id: 0c147f983f (このIDを非表示/違反報告)
ままむの盗賊 - 追加ですみません。一般大学生のホシくんはダンスを始めるきっかけになった。アイドルのホシくんはアイドルのホシとして生きていたら体験できないものを堪能できた。お互い入れ替わって大切なものを手に入れられたんですね...感動。パラレルワールドについて考え (2020年12月10日 1時) (レス) id: 0c147f983f (このIDを非表示/違反報告)
ままむの盗賊 - はじめまして!みなさん言ってるんですけど中々見ない設定で、タイトルに惹かれて読みました。書き方が上手であ〜と思う場面も多々あったり、感動したりとてもいい作品でした!読めて良かったです (2020年12月9日 19時) (レス) id: 16acb9df05 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:いよ | 作成日時:2019年5月19日 22時