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俺の記憶が戻ったと言われた日から、
数週間が過ぎた。
最初の頃は優しくしてくれたメンバーも今や元通り。
なんだか少し残念な気もするけど…
『あ、ホシヒョーン!今度の人気歌謡のスペシャルMCホシヒョンですよ!』
「えっ!?まじで!?」
練習終わりにディノが俺の隣にやって来てそう言った。
『記憶ない状態のヒョンがMCするのは不安だったけど、今はもう安心ですね!』
「おー、俺1人じゃないよな?」
『あ、えっと、確か……』
「俺も知ってる人?」
『この前その人見て歌もダンスも上手いって言ってたから絶対知ってますよ〜、ただ名前が…なんだったかな…』
「まあ、いいや、後でマネージャーに、」
『あ!思い出した!グループ名わからないけど、Aさんって人ですよ!最近デビューしたみたいで…』
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“ な、何か思いつめていることがあるなら話聞きます…、だからその、変なことは考えないほうがっ…!”
“探しましょう!元いた世界に戻れる方法です!”
“明日も遊ぼうよ!諦めてきたもの、全力で回収しよう!”
“向こうの世界の私は、アイドルになってるといいな”
“ほんとはずっと、スニョンに会いたかった”
“…え、あ、名前?Aです”
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『…ホシヒョン…?』
頬に熱いものが伝う。
溢れ出る涙を止めることができなかった。
手元にあったタオルで顔を覆う。
「…悪い、ちょっとひとりにして、」
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どうして今まで忘れてたんだろう。
あんなに大事な人のことを。
ずっと支えてくれた大切な人のことを。
もう、二度と会えない、大好きな人のことを。
“さよなら、また会おうね”
俺はAのそばを離れる時、
何も言えなかった。
何もできなかった。
いつか訪れることがわかっていた別れだとしても、悲しくてたまらない。
静かになった練習室で声を出して泣いた。
もうあの、“A”には会えない。
どんなに願ったとしても。
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『…ヒョン、ごめんなさい。ひとりにするの怖いです、そばにいます、ごめんなさい』
そう言いながらディノはまた俺のそばに座った。
「…はじめてあんなに誰かのことを好きになったんだ、でも好きだって言えなかった、言わなかった、」
俺が唐突に話し始めた意味のわからない話を遮るでもなく、茶化すわけでもなく、静かに聞いてくれているディノ。
『…ヒョンの気持ちは、きっと、絶対、その人に伝わってると思いますよ』
俺はまたディノの言葉に救われた。
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ぽん - 初めまして◡̈⃝︎ホシを推していて、ホシが好きでこちらの小説を読んだのですが、感動しました。最後のシーン涙が出ました。沢山ある小説の中でこの作品が一番好きです!他の作品も読みたいです。ありがとうございました ; ; (2022年8月20日 15時) (レス) @page36 id: 33f90bf03f (このIDを非表示/違反報告)
じゅな(プロフ) - こんにちは。お久しぶりです^_^この物語に感動いたしましたものです。ストーリーと言い、なんといい、ほんとに作者様の才能がもう…(*´ω`*) 最後には感動して涙が出てしまいました。これからも応援してします!!頑張ってください^_^ (2020年12月26日 14時) (レス) id: c9ab294052 (このIDを非表示/違反報告)
ままむの盗賊 - させられました。私ももう1人の平行世界の自分がいるかなとか思ったり。面白かったです! (2020年12月10日 1時) (レス) id: 0c147f983f (このIDを非表示/違反報告)
ままむの盗賊 - 追加ですみません。一般大学生のホシくんはダンスを始めるきっかけになった。アイドルのホシくんはアイドルのホシとして生きていたら体験できないものを堪能できた。お互い入れ替わって大切なものを手に入れられたんですね...感動。パラレルワールドについて考え (2020年12月10日 1時) (レス) id: 0c147f983f (このIDを非表示/違反報告)
ままむの盗賊 - はじめまして!みなさん言ってるんですけど中々見ない設定で、タイトルに惹かれて読みました。書き方が上手であ〜と思う場面も多々あったり、感動したりとてもいい作品でした!読めて良かったです (2020年12月9日 19時) (レス) id: 16acb9df05 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いよ | 作成日時:2019年5月19日 22時