さわやかな香りのデビル (ページ5)

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『俺はもう行くから』
そう言っていたけど、
ここは私の家じゃないから鍵を持っていない。

「オートロック」

考えていることがお見通しなのか、
高級そうな時計を手首にまきながら言われた。

彼はネクタイを締めて、身支度を終わらせていく。

「あの、今何時ですか？」

「八時」

「え、待って。遅刻！」

先に身支度を終えた彼は、
なぜか玄関で待ってくれている。

「もう行くって言ってませんでした？」

「俺のことはいいから、準備しろ」

洗面所を借りて、
必要最低限の化粧を済ませる。

カバンは廊下に置いてあり、
念のため中を調べたけど
何も盗まれてはいなかった。

「すみません。お待たせしました」

「新しい服に着替えた方がいい。こっち来い」

手首をつかまれて、
彼は靴のまま部屋の中に戻っていく。

「これ着ろ」

とても上品なスーツ。
私に差し出してるけど、着れるわけない！

「無理です。
　しかも、新品じゃないですか」

タグに価格が記載されている。
見なければ良かった、と後悔した。

誰でも知っているだろう、
有名ブランドのスーツだった。

もっと着づらくなった……。

「しょうがねえな」

デスクからはさみを取り、タグを切っている。

『しょうがねえな』ってどういう意味？！

「お前が悪いんだから、動くなよ」

カバンを奪われて、躊躇なく床に置かれた。

私が羽織っているコートを脱がされる。

「え、ちょっと待ってください！」

「なに？」

彼の手は止まることなく、
私のまとっている洋服を脱がしていく。