海よりも深く (ページ23)

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「何、言ってるの？」

「信じてねえなその顔」

「信じられるわけないでしょう？」

やっと絞り出した声を、彼は可笑しそうに笑って。
信じられるわけないと、もう一度心の中で繰り返した。

「違う、ユンギは私なんか好きじゃない」

「なんかって言うな」

語気を強めたユンギが、今度は荒々しく口付けてくる。意味がわからない。彼にはチェヨンさんがいて。本来私は、あなたとこんなことをしてはいけない人間なのに。

「高校の時からずっとお前が好き」

「まって、もう、言わないでっ…」

「チェヨンのことを手放せないって分かってたのに、お前に俺の手を掴ませた」

ごめんな、と謝るユンギに、大袈裟なくらい首を横に振る。

違う。私が勝手に掴んだだけだよ。
ユンギは悪くないんだよ。

悪いのは私だけなんだから。

「A」

信じられない？そう額にキスを落として髪を撫でて問われた言葉に頷くと、小さく笑われて。

甘すぎて、眩暈がしそう。

「全部好きだった。真面目なとこも控え目に笑うとこも、時々冗談言って笑わせてくるとこも」

「言わなくていいからっ…」

「気がきくとこも誰にでも優しいとこも、すぐ拗ねるのも照れるのも、俺の名前呼ぶ声も。本当にお前の全部」

耳を塞ぎたくなる。
こんなの、耐えられるわけない。

痛いくらいに心臓が脈打って、身体中の血液が沸騰しそうなくらい熱くなって。

嘘だ、と言いたいのに、愛しそうに微笑むユンギを見ればそんなこと言えるわけなかった。

「A、目閉じて」

もう言われるがまま目を閉じれば、優しく重なる唇。薄く開いた隙間から舌が滑り込んで、指を絡められて。徐々に上がる息と、ぼんやりしてく頭。

やっと離れて、酸素を取り込むように深く息を吐いて目を開ければ、男の顔をしたユンギと目があって思わず息を呑んだ。キスの後この顔をしてるユンギは何度も見たことがあるけど、今のこの体勢は、マズい。

「あっ、まって……」

「待たない」

ちゅ、と首筋に這わされた唇に、全身が震え上がるような感覚に陥った。

これは、逃げられないかもしれない。

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