海よりも深く (ページ22)

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「…どうしたのユンギ」

くぐもった声でそう聞けば、更に強く抱き締められて、少し痛いくらい。

もう一度名前を呼んだら、A、と小さく声が返ってきて、泣き出しそうになる。ユンギに呼ばれる名前は、なによりも私の心を乱すんだ。

「俺のこと、いつから好きだった」

「え…そんなの聞くの？」

突然のデリカシー皆無の質問にたじろぐと、早く答えろと催促されて。困惑しつつも素直に答えれば、彼は抱き締めていた腕を緩めて私の顔を見つめる。

「俺に会ってない時も？」

「…うん」

拷問みたい。恥ずかしすぎる。

そう思うのに、ちゃんと素直に言葉が出てくるのは、どうせ最後なんだからという自覚があるから。もう彼とこうやって話すことも手を繋ぐことも、唇を重ねることもない。

それなら最後くらい、想いを込めればいい。

「最低なんだ、私。再会した時、あなたの手を掴んじゃいけなかったのに」

私は自分の首を絞めてでも拒絶しなきゃいけなかった。ユンギの幸せを壊しちゃダメだったから。

「本当に、ごめんなさい。ユンギの優しさに、甘えちゃった」

「…優しくなんてないよ」

目を伏せてユンギはそう言うけど、あれが優しさじゃなかったら何だと言うの？あ、同情か…あるいは憐れみ？

何にせよ、彼に甘えたことは事実だ。

沈黙の後に寝ようよと口を開けば、私の話を聞いてるのか聞いてないのか、返事もせず私を抱え上げてベッドへ進んでくユンギ。

「ちょっと、重いから！」

「信じらんねえくらい軽い。ちゃんと飯食ってる？」

飄々と言いながら、そっとベッドに下ろして。

起き上がろうと腕に力を込めれば、それを制すようにユンギが私に跨って。

「ユンギ、退いて」

「俺お前が思ってるほど優しくないよ」

「え？」

押し倒されたみたいな状況にうるさくなる心臓の音を聞きながら、どうしてか泣きそうなユンギの表情から目が離せなくなる。

「お前の傍にいたいって言ったのも、キスすんのも、全部俺の本心」

「…そんなわけ、っ、」

軽く唇を合わせたと思ったら、言い返そうとする私を見越してかどんどん深くなってくキス。

肩で息をする私を見下ろして、ユンギは言った。

「ずっと好きだった」

幻聴かと疑う台詞に、言葉も出なかった。

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