海よりも深く (ページ15)

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「風呂広くて落ち着いたわ」

「ね。気持ちよかった」

「このホテル、想像以上にいい」

冷蔵庫を開けたユンギは水を取り出して、それを口につけるのを無意識に見つめる。

「…夜ごはん」

「あ？」

「わざわざ頼んでくれたんだって？」

「あー、バレた？」

「…うれしい。ありがとうね」

「いーえ」

話しかけると水を飲む手を止めて、口の端を上げて笑った後、再びペットボトルに口をつける。

お風呂上がりも相まって、それはもう色っぽい。目が離せなくなってしまう。

「……飲む？」

「いらない」

穴が開くほどの視線に耐えかねたのか、首をかしげてそう問うてきたのに首を横に振ると、ああそっか、と呟いて。

今度は私が首をかしげると、蓋を閉めながら私の方へ近づいてきて。

「Aが欲しいの、こっちか」

「ちょ、」

意地悪げに笑うユンギの考えが読めて咄嗟に逃げようとするも、腕を捕まえられて引き留められる。

「いらな、」

「嘘つき」

「嘘じゃ、っ……」

抵抗虚しく、噛みつかれるように唇が合わさった。息を吸おうとすれば、待ってましたと言わんばかりにするりと舌を滑り込ませる。

ユンギはキスが、上手すぎる。

「ん…、満足？」

「っ…ほんとにユンギ、嫌…」

「ひっど」

嫌なのは、噛みつくようなキスの後も、私の呼吸を奪おうとするようなキスの後も、最後は必ず胸が痛くなるくらい優しいキスをするところ。

あなたの優しさが何よりも痛い。
その優しさを感じる度に、幸せになって、それ以上に苦しくなる。

「……ユンギ、」

あなたのその、左の指に光る、”それ“。

…私はもう、いい加減。
手を離さなければいけないの。

「結婚、おめでとう」

変えようもない現実から目を背けて、彼の優しさに甘えるのは、もうやめよう。

ちゃんと、元に戻らなきゃ。

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