海よりも深く (ページ12)

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「A起きて。着いた」

「ん、……」

あの日みたいに目が覚めた。
おはよ、と笑うユンギの表情もあの頃と変わらなくて、時が戻ったのかと錯覚しそう。

「よく寝た？」

「夢、みてた……」

「どんな？」

「……すごく幸せな」

何も返さず私の手を繋いだまま電車から降りると、目に映った風景は見覚えのあるもので。
私の予想は当たったわけだ。

「泊まるとこも同じ？」

「まさか」

今日はちゃんと予約してある、と言って一度手を離して、また指を絡ませる。
じっとそれを見つめてると、彼は力を込めて、私の顔を覗き込む。

「好きでしょ、こっちのが」

「…別に」

「はいはい」

全部見透かされてるのが悔しくて憎たらしいけど、全部わかってくれてるのが嬉しい。

「もう行く？どっか見る？」

「海にいきたい」

「ん。行くか」

あの時と違って、まだわずかに明るい。
あの時と同じで、知り合いは誰もいない。

綺麗な景色も気だるげな野良猫も、穏やかに暮らす町の人たちも、変わらない。

「海だあ」

「また口開いてる」

「撮らないでよ」

どこまでも続く海に、太陽が落ちていく。

あのまま日が沈んで朝が来たら…、と考えるのが怖い。明日が来ないで欲しい。

「怖え顔」

「ちょ、っ……」

「行こ」

思ったことが顔に出てたのか頬をつままれ、顔を向けると軽く額に口づけられて。

文句を言う暇を与えることもせず、すたすたホテルへ足を進め出した。

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