1-3 ページ4
鬱蒼とした山林を抜けた先、その頂上には。
何も無いという表現が最も相応しかった今までの辛い道のりを忘れさせるような、煌びやかな光景が視界に広がる。
ハクア闘技場。
その佇まいは初めてその地に足を踏み入れた者の心を掴んで離さない。雄大さ、荘厳さは、他の何にも劣らなく、闘士達の魂を昂らせた。ここが、決戦の地。
そんな緊張感溢れる地に、
「来る道は一本道で迷うことがなかったけど……武闘会参加の手続きの場所は……？ 困りました〜……こっちでしょうか？」
女性らしい華やかな雰囲気の旅芸人は、ゆったり口調で招待状を手にキョロキョロと辺りを見回していた。
一本橋を渡り終えたすぐの場所は広場となっていて、観戦客として訪れた者や闘士達の波が縦横に流れていく。
「こなちゃ！あんさんとーし？もしゃまごか？」
迷う彼女の前にひょっこり現れたのは、溌剌とした笑顔の武闘家だった。彼女は訛りが強く、
「えっ？ えっと〜……は、はい、武闘会の参加はどこで手続きすれば良いのか迷っていて〜……」
迷子の旅芸人は、とーし、闘士？ まご……迷子？ と推測し、手探りで返答をする。
「そならあちだよ。いんしょにこっか」
親切な武闘家の女性が指差した向こう、二人は大口を開けた闘技場の入り口へ吸い込まれていった。
その傍ら、旅芸人の女性と同じように、ある女の子が広場の真ん中に佇んで誰かを探すように、しきりに顔を左右に振っていた。
しばらくすると、その子はパッと顔を明るくさせ、ある女性へ向かって駆けていく。父親と思われる男性が顔に笑みを携えてゆっくりとその後を追った。
少女が駆けていったその先には、笑顔の女性。女の子の母親だった。
「ここまで？ あれは丁度いい運動だったわ〜。ダイエットには有酸素運動が1番だもの」
朗らかに言う女性。いい運動どころではない道のりだったが、流石は闘士といったところか。
「…………ふん。……あ、シミさんどうしたの？ あ、人が多くて嫌だよね。早く静かな所に行くから」
その仲睦まじい家族や、行き交う人々に冷たい視線をやって不機嫌そうに顔を歪めた女性は、誰と交流するわけでもなく、踵を返してさっさとエントリーの手続きへ行ってしまった。
「やぁ、見るところキミも闘士の一人みたいだけど、何かお困りかな。俺が力になれれば良いけど」
一方、人当たりの良い笑みを浮かべた銀髪の男性がある闘士に声をかける。人との関わり方は、闘士それぞれのようである。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 22人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
