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大地に架かる橋のような道の脇には、人の手が行き届いていない自然林が広がっていた。
山であるだけあって、木は密集し岩もごろごろと身を寄せ合い、足の踏み場はほとんど見当たらない。まず通ろうと思う人はいないだろうが。それはあくまで一般論であって。
ヒュンッ、ヒュンッ
微かな風を切る音が木々を縫う。
わざわざ道とも言えぬ山道を突っ切って進む者もいた。黒い装束に身を包んだ男は、シノビという職らしい。
その彼は時折、木の頂点にまるで風見鶏のように立ち、方角を確認しつつ、慣れたように木と木の枝を飛び移っていた。それも走るような速さである。だが、
「ッ……!」
彼の動きがまるで時が止まったように静止した。彼は、
「やはり暗い場所を選んで正解でした。 深海で生まれたワタシにとって、あの道は
明らかに人間とは違う声質を、聡い耳で聞き取ったのだった。
妖の類いか、と思い至るや否や、男は逃げるように高速でその場を去った。
その男が旋風のように消えたその場所に、
「通りすがりの金持ちからつい高そうな指輪を盗っちまったが……武闘会で優勝すりゃこんなモン、
いかにもアウトローといった風貌の男が、色褪せてきたブーツで岩肌を踏み締めながら、いかにも高価な宝石のついた指輪を手遊んでいた。
「あれ、俺以外にこんな道を選ぶ人がいたとはね。不思議な声も聞こえるし……何年旅人やってても、世界は驚く事で満ち溢れてるねぇ」
その近くに、山の荒れ道をまるで平坦な道のように難なく歩く男が通る。この雑林を通ると決めた猛者達は、誰一人として後悔をする事なく、皆涼しい顔で歩みを進めるのだった。
正規の道をうだうだと歩くより、確実に近道である荒地の山。
絶壁のような岩壁に突き当たっても、難なく攻略していく者しかいない。
これが仮面武闘会の闘士として選ばれた者の実力だ。
「ンンッ! アーーッッ!!! さッすが
「…………本当、世の中には知らないものばっかりだね」
どこかから発せられた大音声は、決戦の地を目指す皆の頭に響いたのは言うまでもない。
それで度肝を抜かれて、木から落ちかけたシノビがいた事は、彼の名誉の為にも語ってはいけない……。
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