【本編】天下無双仮面武闘会 (ページ18)

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湯けむりが水面に揺れる。
独特の香りに混じる花の芳香が人々の心を癒す。

レンリには温泉、いわば大浴場があった。このあたりの文化は水着を着用しての入浴が普通で、男女混合で羽を伸ばすのが恒例なのであり、この旗亭でもその習わしを規則としている。

個室にはシャワールームも無いことはないが、折角の一流の旅館なのだ。余すところなく堪能するのが乙である。
一刻前ほどは家族やカップル、明日に控える戦闘を万全の体調で観戦しようと胸を踊らせる客などが多く集い賑わっていたのだが、今は人々が入浴するには少し遅い時間で、手足を伸ばす余裕もある。

白く滑らかな浴槽の縁に、同じく白くやわらかな背中を預け、あまりの心地よさに水中で脚を軽く上下に揺らつかせる事も出来るのである。

「ふわぁ、気持ちいいです～……。迷いながら来た甲斐がありました～」

「は～……ぬくーていーね～……」

館内地図をくるくる回しながら頑張ってやって来たエレーヌや、今まで訓練場で軽やかにツメを振るっていたイシュにも湯加減は熱すぎず温(ぬる)すぎず、心身を和ますに丁度良い温度だった。汗を流し、至福の時を味わう。

「はぁ、早く寝ようと思ったのに……ふわぁ……」

あたたかさがあくびを誘うのか、二人とは別の浴槽に入ったヴェロニカは眠気に舟を漕いでいた。彼女は時間を忘れて人形作りに勤しんでしまい、気付けばこんな時間というわけだ。

隣でお湯を手遊ぶリリアも、用が思ったより押してしまい遅めの入浴になった次第。ヴェロニカのたゆんできた髪の結びに気付いた彼女は、聖女のようにあたたかい笑みを携えて、長いウェーブをお湯に浸からないように、ゆるふわおだんごに結び直す。癖毛気味の二人の、お揃いの髪型はまるで仲の良い姉妹のようである。

それにしても、サイズは別であるが貸出用の共通の白色の水着を身に付けた二人が並ぶと、姉妹というよりも親と子のようである。

そう、姉妹と言えば闘士には女性の双子も参戦していて、出張占いに一段落したスピネリアとその用心棒であるたターフェイトも、そっくりの姿かたちを横並びにして肩まで浸かっていた。

「ん、お花の香り……ね、何の花か分かる？」

「そうね、これは牡丹かしら。ハクアではメジャーな花らしいの、よ。どうやって香りをつけたのか、不思議ね」

浴場に咲く女性という華は清廉なのにどこか艶やかで、目を合わせ微笑むその一挙も美しいものである。