4-2 ページ17
「お客様、どうされましたか！」
これほどの騒ぎになれば真面目な総支配人も黙っていられるはずなく、いつもより焦った様子で扉を叩いた。
「これでもう逃げられませんわッッ！」
賊への怒りが収まらないニャンニャンは、総支配人シュザの声が耳に届かず、返事もせずにその飛行する術をもってバルコニーの外に回り込んだ。退路を絶たれた賊は室内に後退るも、部屋の扉の奥にも人。袋の中の鼠とはこの事である。
「お客様！……失礼致します」
返事がないが騒動が収まらぬ室内に、シュザはマスターキーを鍵穴に差し込んだ。
窮地の賊。彼に容赦ない爪の切っ先が向かってくる。
ヤバい、無理だ、そう直感した賊は、明らかに女性のものである総支配人の声を唯一の逃げ道だと思い、開く扉の隙間へ一目散に走ったが、
「ッ！どちら様でしょう。……お客様では無いようですね。大人しくして頂いても？」
彼女の針のような細身の剣が、その道さえも塞ぐ。
背水の陣、絶体絶命の賊は持っていたナイフでそのエペを押し退けようと暴れだした。
それを抵抗と見なしたシュザはエペを敢えて引き、相手の虚をついた。転がり出てきた賊。そこを、
「では失礼します。
「私の
二人の痛烈な妙技が降り注ぐ。
女性を怒らせるとどうなるか。その真実を暴いてしまったあまりの恐怖に男は断末魔を夜分響き渡らせた──。
「という事があったらしいの」
時は大会前夜に戻る。安寧が保たれたレンリの浴場から上がってきた二人はロビーでくつろぎ、イヴの婚約者であるソフィアが先日の事件についての噂を話していた。
「懲悪は世の常、という事か。何にせよ、悪人が捕まったようで安心した。君に万一の事があったら大変だからね」
イヴが朗らかに微笑む。ソフィアの前にいるからだろうか、その表情は花のように優しくやわらかい。
逮捕に安堵する様子を見せるも、強い二人の前にはどうという事はない事件だったかもしれない。
「それにしても、この宿は料理も温泉も一流だ」
「ええ、それだけでも来た甲斐があるけれど……折角武闘会に来たんだもの、しっかり優勝して帰りましょう。終わったらスイーツを食べに行くわ、絶対よ」
そう意気込む彼女が夕食のスイーツにも舌鼓を打っていたのを思い出したイヴは、その茶目っ気に思わず花笑むのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 22人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
