大会前夜-4 ページ16
第一試合まで日があるといっても月日は百代の過客であるから、その期間はあっという間に過ぎ去って行った。幾分か緊張感で空気がピリつくこの頃は決戦が始まる前夜。
行き交う闘士にそれぞれのドラマが生まれたのは事実であるが、その中でも大会前期間で最も大きな事件は、レンリ襲撃事件ではなかろうか。
それは二日前、誰もが寝静まるだろう真夜中の事。
世界各国の富豪が集う旗亭レンリは警備が厳重であるものの、人の手では賄いきれない部分もあった。少ないと言えど存在する穴を見つけ、そこから侵入する不届き者三名が暗躍し出す。
彼らは、不用心にも開いた窓を見つけた。そこは三階であり、流石に大丈夫だろうと宿泊客が高を括ったに違いない、と賊はしめしめと笑った。
先に重しを付けた縄を飛ばし、バルコニーの手すりに巻き付いて安定した導線とする。
金目の物を持って即座に逃げれば大勝利と舌なめずりする一人に、いや他の部屋も狙おう、と欲望を露に縄登りを急ぐ男が言葉を返す。黙々と登る先頭の男が手すりを掴み、バルコニーにひょいっと着地したところで、
「イヤーーーッッッ!!!」
壁がビリビリと震える程の悲鳴が上がる。
その瞬間、賊は魂が抜けたように微動だにしなくなった。
視線の先には、曲線的なシルエットは女性らしいのに大きな羽が広がり背も見上げる程高い人ならざるものが甲高い声を響かせているのだ。
か弱い女性であれば万々歳、と思っていた賊は、とんでもない場所に飛び込んでしまったのかもしれない。
「
待てと弁解の余地を請うも虚しく、白い靄を纏う、色鮮やかな鋼鉄のような爪が振り下ろされる。寸でのところで躱した賊だったが、その威勢の良さに怖じ気づいて退却を選ぶ。しかし、
スパッッ──!
男一人をバルコニーに残し、縄は鋭い切断面を残して切れてしまった。投げられたシンプルなナイフが垂直上昇する一方、賊二人がしがみついていた賊二人が支点を失った縄の大部分と共に落下していく。
泣きっ面に蜂とはこの事か、騒動を聞きつけた一つ下の階の宿泊客及び闘士の女性、シルヴァが寝起きで不機嫌そうな面持ちで、ダーツの要領を用いてナイフを投擲したのだった。
賊二人分の叫び声が、哀れにもレンリの裏に広がる密林へと消えていく。
置き去りの賊は単身で、震える手を手すりに這わせ戦慄した。
22人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ