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次の日の朝。雲一つ無い晴天が、青く透き通る。
彼女は筆を取る。迷いのない筆致は、既に完成図が頭の中に描かれているようだ。重なる色彩は、ハクアの山頂から見下ろす雄大な自然を写し出していた。
──そして彼女はひとまずその青空を塗り終えたところで、空色を宿した筆をパレットの上に置いて息をついた」
彼女の言葉通り、ふうと一息ついて、上に大きく伸びをしたのはペインティ。彼女の口はよく動く。独り言が多い質なのだ。
武闘会が開かれるこの山頂は、自然に包囲されているにも関わらず人で賑わっており、目が肥えた人が見ても一等豪華な景観が造られている。
「このような建造物はどのように造るのでしょう? ランティスには無い技術ですね」
深海から訪れたイオンは興味深そうに闘技場をまじまじと観察し、こうだろうか、ああだろうか、と様々な考察をしているし、
「あちきの居た場所とは全くの別世界……。本当に同じ空で続いているなんて、信じられんせん」
遊廓という狭い箱の中で生きていたシノノメは、同じ煌びやかな世界でもここまで自由な空間が広がっているものなのか、とその羽を伸ばして朝の清々しい空気の下で優雅に散歩していた。
小さめの商業区には、採れたてを輸送してきたばかりの新鮮な果物や西方出身の人々のために香りの良いこんがり焼きたてのパンを売る露店も出ている。
「はい。そう、リンゴ。3つお願いします。…あ、お金。どうぞ。…どうも。では」
そこではアマネが、露店ならではの交流を厭いながら買い物をしていた。そんな彼女の近くで、ここまで歩いてきたシノノメは、美容にも良い、との謳い文句を掲げる別の果実屋の前で購入を検討していた。
一方、好奇心をそそられ露店を覗きに来たイオンも食べたことのない色とりどりの食べ物にそれぞれ、どうやって成るのだろう、どのような味わいなのだろう、とワクワクと疑問を抱きながら目移りする。
寝るに限ると部屋に籠る者も居なくはないだろうが、朝の外出は何とも気持ちの良いものである。
その商業区を更に進むと、ペインティが簡易チェアを置いて描画に勤しんでいる視界の良い展望園に繋がるのだった。
「はい、シミさん。さっき買った朝ごはん、ここで一緒に食べよう」
「何だか分かりませんが、赤い果実とやらを購入してしまいました……。あら、アナタは確か同じ闘士のお方。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「っ……! あ……人、じゃない……。うん、どうぞ」
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