プロローグ-1 ページ2
長城が如く、酷く長ったらしいが舗装された道を闘士が歩む。
カタカタと音を立てて軽快に脇を通っていく馬車には身なりが華美な貴族。一瞬出来た影もすぐ闘士の上を通り過ぎ、また彼らに暑い日差しがのし掛かった。
「あ゛〜…………」
暑さと体力の消耗と退屈に唸ったのは、闘士の一人。彼を纏う衣服を見ればハクア大国出身の者と分かるだろう。
彼は元から切れ長の目を更に細くし、眉間にシワを寄せ、
「っづい……」
溜めに溜めた「暑い」の言葉を締めくくり、首に流れる汗を適当に服の袖で拭う。
ここはどちらかというと、闘技場を目指す闘士の中でも最後尾に近かった。
「ふふ……心が踊ります。強いお方が沢山集まる仮面武闘会……♡」
何が彼女を喜ばせたのか謎にニコニコしたシスター風の女性や、
「こんな所から〜……それっ! 白い鳩の登場だ!」
「テオ兄の曲芸、何回見ても凄い! 子どもたちも喜んでくれたみたいだね」
片方が曲芸をしながら馬車に乗る子供を驚かせていた仲の良い兄弟、
「オ、おねえさん綺麗やねぇ、どこから来たん? 俺はなぁ」
そしてある闘士を口説いていた地方弁を話す男性などは、もう颯爽と見えないくらい先まで行ってしまった。
「ソフィー、疲れてはいないか? もし辛いようなら、少し休んでいこうか」
「ふふ、これくらい平気よ。あなたが傍にいるんですもの。何も辛くはないわ」
ああ、他に夏の暑さに負けない程の熱々のカップルもいたな、と男は回想する。
今、彼の周辺で目立つのは、
「……ふふ、あそこにあちきの望む未来がありんしょうか」
凛と咲く芍薬のように優雅に歩く身なりの美しい女性や、
「ベティ、あっつい? ロニーもあつい……」
片手にお人形を抱き、もう片方の手に日傘を差してゆるゆると歩く女性、
「あー……やっぱ日陰と採集目当てに道外れを選ぶべきだったか……」
行商鞄を背負って若干怠そうに歩く男性など。
彼らの歩みに遅れをとらぬよう足は動かしつつ、これが出たら回復な、と男は魔力でカード一式を懐から一枚ずつシュルシュルと取り出し、ハート柄を狙って、指を鳴らした。
54分の1。くるっと回転して姿を現したその一枚は、
「あ゛〜…………クソ……」
赤と黒のピエロ帽子を被った、邪悪な笑みを浮かべる骸骨。
「今お出ましか、Jokerサマよ……」
だらだらと続く坂道はまだまだ続く。
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