影と月 (ページ42)

今日:5 hit、昨日:5 hit、合計:91,689 hit

４２ページ42

夢、なんだけど

明らかに過去に戻っているかのような。

ただ過去にあった出来事を

夢の中で繰り返していた。

「音楽番組たくさん出るやろ～、

ライブもいずれは東京ドームなんかでやっちゃってさ。

海外でライブするのもええかもな。

あ、あと、ソロでも歌ってみたいわ。

小さいホールかな。セットはなくても、楽器の生演奏で。

そうやな～、その時はAのソロのダンスで～

俺の曲を踊ってもらおうかな」

にこにこ、とまだ成人を迎えていない晃一が語る夢の数々。

その夢の中に私がいることが、嬉しくて。

嬉しくて。

「私も、晃一の曲で踊りたい」

そう言えば、彼は優しく微笑んでくれた。

「んー…」

ああ、そうか、

今までのは夢か。

朦朧とする意識の中

眩しい陽の光が差し込んでいるのがわかった。

「あー…」

ガッサガサの声。

少し垂れている涎がだらしなさを物語っていた。

「あ、起きた？」

「おはよ…」

「寝起き最悪やん」

カーテンを開けたのはタカシみたいで。

タカシはにこにこしながら私に言う。

昨晩とは打って変わって

ノーセットの彼。

一気に幼い印象になる。

昨日の彼はどこにいったんだか。

　

「雪、降ってる。見てみ」

「え？！」

慌てて飛び起き、彼の横に立てば

窓の外には真っ白な世界。

そっか、そんな時期だもんね。

「きれー…」

「ふっ！A、寝癖ひどない？」

むっとしながら無言で髪を弄ると

どうにも変な方向へ飛び跳ねる毛先。

「シャワー、浴びてけば？」

そんなセリフ、私じゃない誰かに言ってあげればいいのに

なんて頭の隅で思いつつ

ありがたく借りることにした。

　