影と月 (ページ31)

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19時を回る頃。

まだ一緒にいた私たちはそろそろ席を立とうとしていた。

「まだ19時なんか。いっぱい寝れる」

「最近寝れてなかったもんね」

「Aも寝れるな」

お互いお疲れ様だね、

なんてペコペコし合って

スマホを開いてみたら

一件の着信があった。

「ユーキから電話あったんだけど」

「ユーキ？あ、もしかして一緒にご飯でも食べるつもりやった？」

「いや…約束はしてないはずだけど、」

時間を確認するとほんの数分前だ。

何の用事だろう、とユーキにかけ直す。

「もしもし、」

「あ！！A！！助けてよ～！」

もしもしの返答もないままいきなり大きい声で助けを求める(？)ユーキ。

「どうしたの？」

「コーイチが！」

「え？」

一気に声色が変わるのが自分でもわかった。

その様子を見ていたタカシも不思議そうに私を見つめる。

「なにしたん？」

「ちょっと待って。ユーキ、なに？」

タカシを一度止め、電話の向こうへ話しかける。

「コーイチと二人でご飯食べてたんだけど

コーイチがA、Aってうるさいの！

酔ってんのか知らないけど、まじで助けて！」

早口で言い終えたユーキは真面目に嫌そうな口調。

あ～、もう。

面倒になる前にこれは行ったほうが良いのか。

というか。

あのオヤジはどういうつもり？

そんなにお酒弱い人？

「A～！お願い！今度ご飯おごるから～！」

今度は可愛らしい声で懇願してきたユーキ。

「仕方ないなあ！焼肉ね！」

「うん！」

あっさりと負けた私。

別に食い意地が張ったわけではない、と思う。

最後にお店の場所を聞き

そこまで遠いお店ではなかったので徒歩で行くことにした。

「コーイチ、珍しいな」

そう呟いたタカシは私を見ながら言う。

「…？そうだね」

なんだ、この瞳は。

やけに心の中がざわざわとする。

「俺も酔ったとき、Aのこと呼んでたら来てくれる？」

「なにそれ～」

「教えて教えて」

「ん～、コーイチよりは面倒じゃなさそうだから

行ってもいいよ」

そう言えば

彼はふふん、と鼻を鳴らした。