影と月 (ページ16)

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お茶を飲んでからの切り替えが早かった。

彼はラグの上で、私はソファの上で台本を手に取った。

彼と私のシーンは少ないため、お互いの好意を持つ相手を演じてみたりする。

＿＿＿＿＿＿「……好き？」

「………………あっ」

私の最大のシーン。

好きな彼に思い切って好きかどうか聞いてしまうシーンだった。

だが、好きな彼(仮)からの返事はない。

「んっ？？は？？」

不思議に思いつつ彼を見つめれば慌てて言葉を放った。

「ごめん、真っ白になってしまったわ……」

「はあ！？」

こいつ、！

私の、！

渾身の演技を、！

「なんなの！もうやだ！言いたくない！」

「ごめんて！……ちょっと素の松尾太陽が、」

何回も謝ってくる彼の頬はどことなく、赤かった。

「ガチ照れしたの？」

「…正直、ちょっとキュンてした…へへ…」

あまり格好良くない笑い方で目を伏せる彼。

調子狂う…！

台本で彼の頭を叩けば、「いてて」なんて呑気をぬかす。

「でも、今の勢い…リアルでめっちゃ良かったで。

もしかして

好きな人でも思い浮かべたん？」

「すっ…」

思わず頭の中に

ポンッと浮かんだあいつの顔。

＿＿＿＿＿＿『好きやで』

…思い浮かべていない

と言ったら半分くらいは嘘になると…思う

「顔、真っ赤。

…俺の知らんところで…」

「もう！関係ないじゃん！」

「いや…もしかしたら…メンバーの誰かかもしれん」

彼は完璧にふざけているが

図星である。

「う～～～～～ん。

…松尾くんかな？？」

「一番ナイから」

「えー」

ごろん、と床に寝そべりながら

私を見上げる。

「A～」

「ん？」

「そのままの調子でいいと思う。

めっちゃ可愛い顔してたで」

この男は自然と言い切ってしまうから困る。

「どんな人なんやろ～～～」

そして私の想い人がやたらと気になるようであった。