影と月 (ページ14)

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ドラマのビジュアル撮影終了後、

「…っあー！」

目の前の壁を相手に

セリフを口にしてみるが

自分で聞いていても棒読みなのは明白だった。

こんなんじゃドラマに集中できないよ、

私の演技力が足を引っ張ることになるのではないかと不安になる。

久々に何かに挑戦している感覚。

なかなかに厄介な部類だ。

ああ、どうしよう、

「A～」

一人で落ち込んでいると柔らかい声が私を呼ぶ。

「どちら様ですか～」

「タカシや、」

「あ～～～、タカシ～～～」

「せめて最後まで言わして」

もう、なんか、タカシがいるだけで安心する。

「何したん」

「もう、セリフが入ってこない。

棒読み。焦り。不安。

タカシがいなくてどうしようもない」

「うん、わ、わかった、落ち着こ。一旦落ち着こ？な？」

吐き出すように自分への不満を言っていけば

彼は私の背中をさすりながら目線を合わせてくれる。

どこまで純白なんだ、君は。

「じゃあ提案なんやけど、一緒にやってみる？」

「一緒に、？」

思いついたように告げた彼。

一緒に本読みをして、お互いにどう感じるか言い合おうとのことだった。

「どこでやるの？」

「あ～…」

辺りをキョロキョロと見回し、「どないしよ」などと呟く。

本当に思いつきだったんだ。

「俺ん家？…いや、だめか」

「それでもいいよ」

「いや、今めっちゃ汚いねん」

正直私はどうでもよかった。

演技のことで頭いっぱいの私は

「もうタカシの家で決まりね！」

と一方的に決定を下した。