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第三章 〈動き出す〉 ページ10

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昨日も大ちゃんの家に泊まって、一緒に仕事に来た。メンバー揃って仕事をするときは毎回こんなんだから、今さら誰も口を出さなくていつも通り楽屋に入る。


大ちゃんと一緒にソファに座って話してたら、知念が寄ってきた。


「大貴、ちょっといのちゃん借りても良い?」

「え、いいけど」


話が途中で終わってしまったのは気になったけれど、俺は知念には逆らえなくて、取り敢えずついて行った。

楽屋を出て、誰も来ない、っていうか俺自身も行ったことのないような非常階段に着いてひそひそと話し始める知念。


「いのちゃんさ、涼介のこと、嫌い?」


ドキッとした。ずっと避けてきた、山田の話題。末っ子から、こんな風に持ち出されるなんて思わなかった。


「き、」


『嫌い』って、嘘、つこうとした。あんな終わらせ方されて、悲しくて、嫌いって思わないとやってられないから。
でも、俺が前にしてるのは山田と仲良しな知念。嘘なんて言ったら山田に伝わる。
黒い思考が、ぐるぐるぐるぐる。


「いのちゃん、考えなくていいよ。僕は涼介にこのことについて言わない。皆にも内諸。約束するし、いのちゃんが思ってることは絶対に否定しない。」


「、っ、俺、山田のこと、嫌いなんかじゃないっ。関わると、思い出して辛くなるから、いたたまれなくなるから…山田だって、きっと同じように思ってるんだと思うし…」


嫌いじゃないよ。でも俺、きっと山田には嫌われてる。だって、山田にとっては俺、訳解んない奴だもん。急に告白して、急に距離とって。
きっと知念以外のメンバーも気にしてる。迷惑、かけちゃってる。


「いのちゃん、悪くないよ。涼介も、悪くない。誰も悪くないから、責めないで。いのちゃんの正直な気持ち、聞けて良かった。
いのちゃんが涼介のこと嫌いになってなかっただけで安心したから」


涼介、ヘタレだけどちゃんと考えてるよって、何を?

ほら行こって、俺の手を引く知念を見て思った。知念、全部知ってるんだ。知ってたのに、ずっと俺を慕ってくれるんだ。涙がぽろりと溢れて、拭ってもらう。


知念の表情は見えないまま、楽屋に戻った。

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作者名:take a walk | 作成日時:2024年1月14日 2時

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