第一章 〈それぞれの後悔〉 ページ2
ym side
「あ、山田。お先〜」
にこって笑って楽屋の入口で入れ違いになった大ちゃんの後ろを、伊野尾ちゃんがついて行った。
相変わらず、仲良い。
「はぁっ」
着替えていると、知念の手が肩にのる。
「今日、ご飯行こ」
「いいよ」
「今日は、僕もお金出すから」
あまり普段俺をストレートに甘やかすことをしない知念。『僕もお金出す』っていうのは、知念の精一杯の俺への優しい声がけ。
2年前、伊野尾ちゃんは俺に告白してきた。そんな素振りも全く見せないし気付かなかったから突然のことで驚いて、伊野尾ちゃんの気持ちを配慮する言い方が俺にはできなかった。
「ごめん、無理」
馬鹿だな〜、俺。もっと言うことあっただろうに、真っ直ぐ過ぎるくらいの言葉で切ってしまった。
「っ、ははっ、だよな。いーのいーの、断ってもらって諦めつけたかっただけだから」
2人だけの空き部屋で伊野尾ちゃんの乾いた笑い声が響いた。
その後、じゃあ、と言って先に戻っていったはずの伊野尾ちゃんは、皆がいる楽屋にはいなかった。
____今思えば、あのとき大ちゃんもいなかった。
多分、泣いてた。あの人はそういうの見られるの嫌うから、ポーカーフェイスで、本心を見せないから。
それからの伊野尾ちゃんは、いつも通りだった。もともと伊野尾ちゃんと俺は頻繁に関わるメンバーでもないから何も違和感はなかった。
でも俺は距離を感じた。格段に挨拶も、目を合わせることも減った。仕事中は完全に以前と変わらないのに、裏になると俺の方を見ようともしていない気がした。
そんな中でまた急に、伊野尾ちゃんと大ちゃんが付き合うことになったという報告を聞いた。
その時俺はあろうことか、大ちゃんへの嫉妬心を覚えた。
ああ、いつの間にか伊野尾ちゃんは、こんなに気になる存在になってたんだ。
ずっとずーっと後悔してる。あんな言い方をしたことを。もっと伊野尾ちゃんに向き合わなかったことを。
初恋に気付くのが遅すぎたことを……。
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作者名:take a walk | 作成日時:2024年1月14日 2時