実況しましょ、独壇で。 (ページ6)

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五基仮想の彼女は偽物か？ページ6

「…本だけでは、私には物足りなかったんです。見たこともないその光景を、どうして思い浮かべることが出来るでしょうか。…私にとってゲームは、確かな“経験”だったんです。」

経験、か、と、彼らもその感覚を分かち合うことが出来ていた。ゲームがなければ、自分は空を飛ぶ感覚を経験することは出来なかった。サーキットで走ることなんて出来なかった。ゾンビと戦う、恐怖を味わう、真実を一心に究明する主人公の気持ちを、理解することなんて、きっと。

ゲームは悪いものだと世間は言う。厳密に言えばごく一部の層の話だけれど、その一面を孕んでいることは確かだった。ただ、それだけではない、決して。彼女のように、現実で出来ない経験を、仮想で体験する人達もきっと多く存在しているだろう。

側面だけ見ていても、本質を理解することは出来ない。

「…両方あってのAちゃん、か。」

「え？」

「んーん。実況してる時の君も素敵だけど、今の君も好きだなって思っただけー。」

へらりと笑って言ったおついちに、Aはきょとんと目を丸くする。

暫し沈黙していた彼女は、ぽつりと、零した。

「……おついちさんはやっぱりキザなんですね」

「おついちさんやっぱり女の子が好きなんだよ」

「おっつんやっぱりそこそこドＭなんだぜ」

「こらそこ！変な便乗の仕方をするな！」

せっかく良いこと言ったのに！と自分で言ってしまうおついちに、兄者と弟者はけらけら笑う。そんな三人の振る舞いにAはやっぱりきょとんとして、だけれど。

少し、その様子を眺めていたかと思えば。彼女はくすりと、可愛らしく笑った。

「…やっぱり、私は間違ってなかった」

「んえ？」

「ふふ、いいえ。こちらの話です」

「んー！Aちゃん、それ！」

「え？」

「けーご！年上を敬うのは正しい処世術だけど、俺はもっとフランクに接してもらえたほうが嬉しいなあ」

「フランクに…お友達、みたく？」

「そうそう。せっかく好きなものを共有するんだからさ、俺達仲良くなろうよ！」

さすがおついち、年長者。もとい女好き。

そう心の中で呟いたのは兄者と弟者である。彼女の堅苦しい敬語に引っかかっていたのは何もおついちだけではなかったのだけれど、それをどう伝えたらいいのかと悩んでいたのだ。

それをあっさりと、かつ柔らかく伝えてみせた彼に、二人は心の中で拍手した。本人には、癪だから伝えない。そんなところを結構尊敬している、だなんて。