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-対戦相手N- ページ10




 笛が鳴る。

 ボールを床に叩き付ける音だけが体育館に響く。ボールの持ち主が顔を上げた瞬間、目が合った。

 サーブトス、助走、フォームまで無駄のない完璧なサーブだ。細身の体からは考えられない力強いサーブが真っ直ぐ俺に向かってくる。


「あ、やっべ」


 なんとか俺が上げるもネットを飛び越えそうだ。
 影山が押し込もうと跳ぼうとするが、走ってくるあの人の方が一歩速かった。

 あの人のダイレクトは角度が鋭く、ほぼ影山の足元に落ちる。


「あっぶね〜。なんでリベロに打ったんだろ」
「チョットチョット! Aクン! 今のだいぶ危なかったよ!?」
「A!! てめぇなにリベロに打ってんだ!!! その襟足切れ!!!」
「げ、監督……。一点獲ったから良いじゃないですか〜。まあ次は決めるけどな」


 そう言った瞳はギラギラしていて、サーブを受ける側としては楽しみで仕方ない。

 総合的に見れば及川徹の方が上だが、あの人のサーブに驚かされる理由は体格とのギャップと言ったところか。レシーブも安定してセッターの位置に返しているし、スパイクはウシワカが軸だが偶に放たれるインナーやクロスはほぼ得点になっている。打つ度にセッターになにか言っているけど。


 第一セットは白鳥沢が獲得して幕を閉じた。




*




「相手のリベロ、やるな」
「若利の強打をあそこまで……」


 ふとAを見ると、タオルを頭にかけボトルを持ちある一点を見つめていた。その瞳は試合前とは違ってなにを考えているのか分からない色をしている。

 逸した目を追いかけるようにAに向く目。この兄弟の視線は交わらない。


「若利、第二セットも頼むぜ」
「ああ」


 若利に向けた瞳は既に色を戻していた。天童とは違う意味で読めないやつだ。

 第二セットが始まる笛が鳴る。タオルをベンチに置いてコートへ向かった。


-後輩G-→←-元チームメイトI-



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作者名: | 作成日時:2019年8月7日 23時

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