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-大王と黒鳥- ページ24




 影山Aは不安定な男だ。その不安定さで安定している男だ。

 整った顔立ち、細身の体から放たれる強靭なスパイク、そしてなにかを覚悟した鋭い目。しかし時折揺れるその瞳はまるで居場所を失くした迷子のようだった。

 昔からあまり顔には出ない性分だ。だがここまで関わりがあればすぐに気付く。落ち着いているように見えて焦っていることを。
 普段は襟足ばかり触るのに、焦っているときだけ前髪を触る癖はきっと自分では気が付いていないのだろう。


 あんなに溺愛していた弟を突き放したくせに、曖昧な態度をとる理由なんて試合を見ればすぐに分かった。




*




「……」
「…………」


 ロードワークの途中で立ち寄ったコンビニの雑誌コーナーで立ち読みしていた。軽快な音楽で自動ドアが開いて、入ってきた人物がこちらを凝視して立ち止まるのが視界の隅にうつった。

 真っ白の特徴的なジャージには見覚えがありすぎた。切れ長の目を丸くしている姿は、以前見たより憑き物が落ちたようだった。
 まあるくしていた瞳が弧を描く。


「よ、及川じゃん」
「……なにしてんの、オマエ」


 私物のジャージを着ている理由なんてロードワークくらいだろうが、態と突き放すような態度をとる。昔から余裕な態度で冷静にいるところが苦手だ。


「決勝戦観に来てただろ。表彰式のときにはいなくなってたけど」
「……よく観客席なんて見る余裕あるね」
「余裕を作るために見てんだよ」


 別になんとも思ってなさそうな、弟によく似た顔で棚からジャンプを抜き出してぱらぱらとページを繰る。ナルトが、とか十尾が、とか言ってるけど全部無視して、進路どうすんの。なんて高校生みたいなことを聞いた。いや、高校生なんだけどね。一切こちらを見ないで大学進学、と呟く横顔はなんだかムカつく。


「ていうか、大学進学ってなに。オマエ、プロになる気とかないの」
「ないよ。大学でもバレーはやらない」
「なんで、」
「及川は進路どォすんの?」


 その表情はやっぱり中学のときとは違っていて、思わず息を呑む。適当を言って誤魔化していたあのときとは違う、影はすべて取り払われたような表情をしている。
 純粋そうな顔が、弟に一層似ていて虫唾が走った。


「海外」
「まじか、お土産ヨロシク」
「旅行じゃねぇから」


 弟によく似た顔をしているくせに、中身は全く似てないAが、俺はやっぱりすきじゃなかった。


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作者名: | 作成日時:2019年8月7日 23時

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