-兄、帰省 中- ページ21
‥
目を見開いて金魚のように口をパクパクしているやつが多いな。ここは水槽かよ。
最初に声が出たのは十番だった。
「なんでコクチョウがここに！？」
「別に俺鳥じゃねぇから」
固まっていたやつらがざわつき始めてから、一拍遅れて戸惑ったような声が耳に届く。
「なっ、なんっ、なんで兄さんが！？」
「お前弁当忘れてったろ」
「ちょっ、オイそこ閉めろ。なんか女子の数増えてんぞ」
「え、入っていいの？」
「いいから！」
振り返るとさっきより明らかに多い女子の数。ぎょっとしてお言葉に甘えさせてもらうことにした。
ありがとう、と手を振って扉を閉める。体育館内からはなんでお前がここに、という視線が痛かった。
取り敢えず監督だかコーチだか分からないが金髪の人に練習止めてすみませんと謝ると丁度昼休憩に入るところだったらしい。ナイスタイミングだな。家に帰る前にコンビニで買ったサンドイッチがあったのでご一緒させてもらうことにした。
「ほら、弁当」
「お、おう……アザス」
ぎこちない。なんだこいつ、ガラでもなく緊張してんのか？それに比べて十番は予想通り元気いっぱいと言ったところか。
「あの！ なんで�爛屮薀奪�・スワン�瓩辰童討个譴討襪鵑任垢�！？」
「知らね。困っちゃうよな、高三にもなってそんな中二くさい名前」
「ブラック・スワン理論から来てるんじゃないの？」
「なにそれ」
「なんであんな女子侍らせてたんすか！？」
「や、どこで部活やってんのか分かんなくて」
「その髪型なんすか！？」
「しっぽ」
質問攻めだ。他校生とも馴染める自分の社交性に感動した。ブラック・スワン理論ってなんだそれ。白鳥沢から来てるんじゃねぇの？
つーか弁当届けに来ただけなのになんで一緒に昼飯食ってんだ。飛雄はほとんど喋らないし。中二から今までなにがあってそんなコミュ障になっちまったんだ。
「……さっき女の子達に飛雄の兄だってすぐバレたわ。似てるって。飛雄、モテるんだな」
「は！？」
「いやコイツ補習中白目剥いて寝てますよ！」
「日向テメェ！」
「補習って……お前頭悪いんだな……」
「お兄さんそんなしみじみ言わなくても」
サンドイッチを食べ終えて、バレーしようって誘われたけど靴下だと滑るし、制服だし、断った。そもそも部外者だし。
飛雄に家で待ってる旨を伝えるとちょっと嬉しそうにしてた。
挨拶をして体育館を出る。
俺を待ち構えていたのは女子の軍団だった。
‥
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作者名：幸 | 作成日時：2019年8月7日 23時
