-弟- ページ3
‥
俺は兄さんと仲が良い。
俺より二年早くバレーボールを始めた兄とはよく家の前でもボールに触れていた。
テレビで春高を見た時、兄さんは言った。｢春高で、東京のコートで、お前のトスを打ちたい｣と。
｢秋山小出身、影山飛雄です。バレーは小二からです。よろしくお願いします！｣
兄と同じ中学に入った。思えば俺は、ずっと兄の背中を追いかけていたのかもしれない。
｢もしかして、Aちゃんの弟？｣
｢そ。いじめんなよ？｣
そう及川さんにいたずらに笑いかける兄は家とは少し違った。
兄さんは一年のときからスタメンだったらしい。うちのチームは及川さん、岩泉さん、そして兄の三人を軸に動いていた。
兄のスパイクは鋭く、力強かった。家に帰っては腕の振り方を教えてもらっていた。その度に兄は｢お前セッターなんだから打つ機会なんてそうそうないだろ｣と笑っていたが。
及川さんのジャンプサーブを見たとき、俺もこれを打ちたいと思った。教えを乞うが一度も教えてもらえなかった。
登校するだけで汗を掻くようになった時期。俺が中学で初めて試合に出てから少しした頃。及川さんの様子が可笑しかった。兄さんはあまり変わらない様子だった。
いつも通り、自主練をしている及川さんに教えを乞うも岩泉さんに｢今日は終わり｣と言われたので部室でおにぎりを食べていた。体育館はあまりよくない雰囲気だった、と、思う。途切れ途切れ聞こえる声にぼんやりしていると突如扉が開いた。
｢あれ、飛雄まだ帰ってなかったの？｣
｢及川さんに……｣
｢及川？｣
｢なんでもない。兄さん、帰ろう｣
鞄を持って立ち上がれば兄さんは｢おー｣と返事をして部室のものであろう鍵を室内のフックに掛ける。きっと兄さんは、二人が残っていることを知っていたんだと思う。
二人の帰路は少し冷たかった。
｢及川さん！サーブトスのコツを｣
｢イヤだね！バーカバーカ！｣
｢及川、一年に絡むんじゃねぇ｣
｢大人気ないぞー｣
相変わらず何も教えてくれなかったが、入部したての頃のような雰囲気に戻っていたのが分かった。この頃俺は兄さんとバレーするのが楽しくて仕方なかった。
結局白鳥沢には一度も勝てなかったが、涙ながらに笑顔で引退していった及川さん達を見て俺の中でなにかが湧いた。同時に、いつもより暗い表情の兄をよく見かけるようになった。
しかし中一の俺は高校でも兄とバレーを出来ると信じて疑わなかった。
‥
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作者名：幸 | 作成日時：2019年8月7日 23時
