-黒鳥と白鳥- ページ18
‥
俺にとってこのチームは踏み台のようなものだった。飛雄の才能を伸ばすだけの、踏み台。
「の、はずだったんだけどなァ」
いつからこんなにも情が移りやすくなったのだろうか。いや、今までも非道になりきれないことの方が多かった。
学校へ戻って、百本サーブも、引退式も終えて。ぐしゃぐしゃに泣く後輩達の頭を掻き撫でて。寮までの道を、仲間と歩いていた。
きっと俺達より一歩前で終わった及川は帰路を岩泉と共にしただろう。なにかが違えば、そこに俺もいたかもしれない。
「Aクンは冬休みまでどうすんの？」
「……とりあえず、家に帰るかな」
「エッ！！ あのAクンが帰省！？ 家に弟いるんじゃないの！？」
「まあ、いるけど」
試合終了の際に見た飛雄の笑顔は驚くほど穏やかで、俺の全てが終わったこの段階で一度会っておかなければならない。罵倒されっかな。それとも軽蔑かな。両方しないって、確信してるけど。
「Aさん！！！！」
「うおっ、びっくりした。工か」
「また一緒に昼ご飯食べてください！！！」
後輩も先輩も、ただのチームメイトのはずだった。部活以外ではほぼ関わらないって思ってたし。
「いいよ」
「Aさん、コイツ女子からの視線を集めたいから誘ってるだけですよ」
「違いますよ！！！」
「ははは、工も男子だなあ」
「もー、工うるさい。近所迷惑だろ」
「英太ママ」
「誰がママだ」
俺は、思ってた以上にこのチームに思い入れがあったらしい。楽しいなんて、寂しいなんて。
三年前を思い出した。夕暮れの教室で、及川と話したあの日を。うちのセッターは心が広かったよ、お前と違ってな。まあ、賢二郎は後輩だから言えなかっただけかもしれないけど。
及川達にも会っとかなきゃなあ。あいつらは意味分かんないくらい罵倒してきそうだけど。
「三年間、楽しかったな」
溢れた言葉に全員足を止める。
「おい、もう散々泣いたろ」
「そうだよ、もう良いだろ」
「いやこの人泣いてませんよ」
「そうじゃんAクン一滴も涙零してないじゃん！ 泣けよ！！」
「A」
あーあ、ガラでもないこと言おうとするとこれだよ。意外とうるさいやつらだ。
「三年間ありがとな」
そう言った俺は笑えていただろうか。最初に飛びついてきた英太の肩で泪を拭った。
‥
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作者名：幸 | 作成日時：2019年8月7日 23時
