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-兄- ページ16




 俺の弟は可愛い。
 こう言うと全力で否定してくるやつもいたが、大抵のやつは「お前ってブラコンだよな」なんて揶揄ってくる。いや、でもさ、本当なんだよ。二歳年下で、いつも兄さん兄さんってカルガモの赤ちゃんみたいに後ろをついてきて。テレビで春高を見て、交した約束だって忘れてないさ。

 中学三年のとき、俺と同じように北川第一に進学してきた飛雄は驚くようなスピードで才を伸ばしていった。及川の代わりに入った練習試合あったろ?そのとき飛雄のトスを受けて、言葉を失ったよ。そして気付いたんだ。俺の弟は天才だ、と。
 もしこいつが同学年だったら、きっと俺は歯も立たない。なのに、なんでこいつは俺の背中なんて追っているんだ。俺なんて越えていかなきゃ、もっと上は目指せない。
 及川が飛雄に追い込まれていることくらい知っていた。ただそれと同時に、俺も追い込まれていることを悟った。


 引退した直後だった。白鳥沢の監督が、俺の元を訪ねてきたのは。今までウシワカを、白鳥沢を目の上のたんこぶと扱ってきた俺をスカウトしに来たのだ。因縁の相手をスカウトしにくるなんて馬鹿なジジイだ、なんて思ったりもした。
 だけど、一般受験なら俺でも危ういこの白鳥沢にはきっと飛雄は受からない。三度目に訪ねてきたとき、ひとつ、条件を出した。「二年後、影山飛雄をスカウトしないなら白鳥沢に進学する」と。生意気なガキだと思われたかもしれない。けれど監督はその条件を呑んだ。
 それからの俺は早かった。少しずつ荷物を纏めて、親にはしっかりと口止めをして、誰にもバレないよう進学の準備を進めた。


 進学して、元チームメイトには寝返ったと罵られた。周りのやつらには弟の伸びゆく才能に恐れを生したと蔑まれた。だけど俺にはそんなことどうでも良かった。弟と敵対することで、弟の才能がより伸びるのなら。

 影山飛雄が「コート上の王様」と畏れられるようになった頃、俺は「ブラック・スワン」なんて中二くさい名前で呼ばれるようになった。自分の弱点と徹底的に戦った。飛雄が俺を越えようと才能を伸ばしているのだと思ったからだ。



──県大会決勝を観るまでは。

 ああ、こいつはまだ俺なんかの背中を追いかけているんだなあ。見るに耐えない背中から、視線を逸した。
 お前の才能は、こんなところで止めてちゃいけないんだよ。全国に、羽ばたかせなきゃいけないんだよ。




「なんでお前が俺に勝てないか、教えてやろうか」




-閑話-→←兄の独白



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作者名: | 作成日時:2019年8月7日 23時

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