fils（仮名） 【ブロリー夢】

とある男の話 ページ24

これはとある男の話である。

男はいとも容易く星すらも破壊できる程の『強大な力』を持っていた。
あの日、額の制御装置を父親に付けられてから全て管理され制御されるようになった。
その『強大な力』のみならず、行動も、思考も、感情すらも。

「お前のためなんだ、ブロリー。わかってくれ」

何かに対し思い抱いだことは次の瞬間にすぐに消滅する。例えそれが即座に消えなくとも、結局後から消去され何も残らない。
次第に感覚が鈍り、物事を深く考えなくなってしまった。ゆらゆらとした思考の中に響く父親の命令をただ純粋に実行するだけの機械と化した。緩く鈍くなってしまった思考はそれをすんなりと受け入れてしまう。父親はそんな男を満足げに、そして複雑な顔で見ていた。

ーそんなに操り人形が欲しいのならば、俺の精神を完全に破壊してしまえばよかったものを。
完全に思考能力を奪うわけではない父親の考えを理解することはできなかった。

ただ男には、幸か不幸か、二つだけ消すことのできない感情があった。
それは遠い昔に自分の横で泣いている赤ん坊へ抱いた感情と、ベジータという自分を処分して父親諸共捨てた男への感情である。
この二つの記憶はひたすらに不愉快で怒りを感じるものではあるが、どんな時も男の心にしっかりと強烈に残っているものだった。それが男の寄る辺ともなっていて、自分が自分であるための、数少ない『感情を抱ける大切な記憶』だった。

逆を言えばそれ以外一切残らないため、命令がない時はぼうっと椅子に座って外を眺めているだけになってしまった。思考能力は残っていたが制御装置が働くのが億劫だったのであまり考えないようにしていた。

閑話休題。

その日は父親の命令を実行するためにとある星に降り立った。
父親から受けた命令はいつもと少し違うもので、そのせいですぐに星を壊すことはできなかった。制御装置の影響も心なしか多少緩まっている気がする。自分に最終的にこの星を破壊させる気なのだから、ある程度は制御装置の影響を少なくしなければいけないようだ。

少しの開放感に胸を踊らせた。思うままに行動できる機会はほぼ無いため、男は常に飢えている。残らないはずの刹那の感情を求めて貪欲になっていた。


ふと思う。もしも自分が、何も制御されず命令もされず、好きに生きていけたならどうするだろうか。
恐らくもう何も我慢はしないだろう。思うがままに、生きるだろう。

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