初めまして、花嫁さん【赤葦京治】 (ページ29)

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そんなこんなで、他愛もない会話をしながら
ゆっくり、ゆっくり歩いていた。
もちろん手は繋いだまま。

そして、私の家の前まで辿り着いた。

｢着いちゃいましたね｣

私の家は、2階建てのアパートの2階、1番端の部屋。

アパートをじっと見つめながら、ぴたりと動きを止めた私たち。

そう。
今度は手を離したくなくて、お互いにタイミングを逃してしまったのです。

｢なんか、こんなことさっきもあったような｣

｢私も同じこと思いました｣

どうしましょう。とお互い顔を見合わせると

距離が少しずつ、少しずつ縮まっていく。

そして、ふわりと赤葦さんの香りに包まれる。
赤葦さんだ、ってすぐにわかる。

本当、私はいつの間に“赤葦さん”のことをこんなにも好きになっていたのだろうか。

“けいじくん”でも、憧れの“赤葦さん”でもない、
突然、２回もプロポーズをしてきた“赤葦さん”を。

｢Aさん｣

｢なんですか？｣

顔を上げて、その整った顔を見つめる。

赤葦さんは背が高いから、だんだん首が痛くなってくる。
……次会うときはヒールの高い靴にしよう。

｢俺、どうしようもないくらいAさんのこと好きです｣

｢私も、どうしようもないくらい赤葦さんのこと好きですよ｣

言ったあと、急に恥ずかしくなってきて
赤葦さんの胸に顔をうずめる。

そんな私の頭を、ふふっと笑いながら優しく撫でる赤葦さん。
ときどき指が耳に触れて、くすぐったくなる。

｢離したくないんですけど、どうしたらいいですかね？｣

｢うーん、離さないでいればいいんじゃないですか？｣

｢そうですね、じゃあ離れないでいてください｣

その言葉を噛みしめて、こくりと頷く。

このままずっと、ずっと離れないでいたいくらいなのに

必ず別れの時が来るということ＿＿そのことへの恐怖が、
私の胸をかたく締めつけてくる。

離れたくないって思うのは、
お互い帰るべき家があるからなんだ。

……それなら簡単なことじゃないか。

離れる必要がなくなる方法なんて、
私はひとつしか知らない。

赤葦さんの背中へと回された腕に、さらにぎゅっと力を込める。

もう、答えは出ましたよ。

｢赤葦さん、私たち

＿＿＿＿結婚、しましょうか｣

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