propose*022 ページ23
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「それで、その少年とはどうなったんですか?」
「もう、あの日以来会ってないです。顔もよく覚えていないですし」
思い出すと、苦しくなる。
傍から見れば、大したことないのかもしれない。
もう何年も経っているのだから、諦めるべきだとも思う。
それでも、いつも心のどこかにあの子がいて、
名前も雰囲気も優しいところも似た赤葦さんに
あの子の姿を重ねてしまったのは事実だった。
「……馬鹿ですよね、10年以上前のことなのに」
ここまで似ているなんてもしかして、と思った時もあった。
でも、それは早く忘れたいことだったわけで、
今は今で幸せな日々を送れているから
それでいいとばかり思っていた。
「馬鹿なんかじゃ……ないです」
俺も忘れられないことの一つや二つありますし、と赤葦さんは続けた。
この時の私は、期待していた。
ほんの僅かな可能性に、そうであってほしいと願っていた。
「赤葦さん、ひとつ聞きたいことがあります」
隣にいる赤葦さんを、まっすぐ見つめる。
「何ですか?」
「……赤葦さんは、“けいじくん”では、ない……ですよね?」
ブランコの鎖をぎゅっと握りしめる。
ほんの少しの沈黙なのに、うんと重く感じた。
今にも心臓が飛び出そうなくらいに、
胸の鼓動が全身に響いているのがわかる。
「……です、そうです。俺です」
本当に、赤葦さんだったんだ……!!
この事実が頭で理解出来た瞬間、
視界が一気に晴れわたっていった。
今までの謎がこの一言で解けていく。
「やっぱり、そうだった____」
「……嘘ですよ」
「えっ、……え?」
この数秒間で私の表情は何度変わったのだろう。
呆気にとられた私は、口をぽかんと開けてしばらく固まっていた。
「そうだったらいいんですけどね……」
そう言って赤葦さんは俯いた。
少しでも期待した私が馬鹿だった。
ここまで都合のいい話なんてあるわけない。
分かっていても、どこか寂しい気持ちがあり
私はがくりと肩を落とす。
「だって、思わないじゃないですか」
俯いたまま、赤葦さんは話を続けていた。
「毎日のように犬のTシャツを着ていた子が、
こんなに素敵な女性になっているだなんて」
私は、犬が好きだったことしか話していなかったはずだ。
「ごめんなさい、嘘なんかじゃないです。
……これで分かってもらえました?」
本当に、全てが繋がった瞬間だった。
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雪見ユキバ(プロフ) - くぅ、か、カッコよすぎだろ… (2019年5月2日 22時) (レス) id: a10d471b60 (このIDを非表示/違反報告)
まろん - マジすこです() (2018年12月23日 9時) (レス) id: 5890d86e26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:めかこ | 作成日時:2018年10月21日 20時