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『そう言えば、どうして篤人と私が、その、…ヨリを戻したって知っていたの?』
Aがフランツに言いにくそうに聞いた。
こういう時ドイツ語だと便利。
何を話しているのか、店の人には判らない。
『だってアツトはAを追っかけて移籍したんだろ?』
『はあ?』
『ゲルキル界隈じゃ有名な話だ』
『嘘だろ?』
・・・そんな、女を追っかけて、だなんて!
『それは、篤人が可哀想』
や、A、あなた、肩が震えてますけど。
『ちゃんと訂正しといてよ!』
『何が問題なんだ? 大事な人や家族の為なら、そんなのは当たり前の事だ』
あ。
もしかして、フランツが国境なき医師団を辞めたのも家族の為なのか。
だって、話を聞いてると、ほんとはもっとそういう仕事をしたいみたいだった。
『…家族の為にドイツに戻ったの?』
『ん?』
『やっぱり一緒にいたいよね』
『…一緒にいたいと言うよりもね、怖くなっちゃったんだよ』
Aは。
なんとも言えない顔をしていた。
『助けられる人よりもそうじゃない人の方が多くて、毎日人が死んでいく状況で、いつ自分がそちら側になるか』
何もかもが足りない現場では、こちらもいつどうなるか判らない。
『同僚がエボラに感染した時には、もうやりがいとか使命感だけでは無理だと思った。…二度とこの子達の顔を見れなくなるかも知れないと思ったらね』
内ポケットからスマホを取り出すと、待ち受けを見せてくれた。
家族って、こどもって。
Aを見た。
Aも俺を見ていた。
チェックインした部屋でふたりきりになっても、まだフランツの言葉が耳に残っていた。
Aはフランツからのお礼の電話を受けている。
しばらく話した後、「篤人に代わってだって」と、スマホを渡される。
『アツト?』
『はい』
『今日は会えて嬉しかったよ。ありがとう』
『うん、俺も』
『…アツト、君たちが先の事をどう考えてるのかは判らないけど、少なくともAは、何か不安を抱えてそうな感じがした』
『…判るの?』
『判るよ、私はドイツのお父さんだからね(笑)』
『ああ』
『後悔しないように。サッカーもAも』
『…ありがとう』
電話を切ると、Aは俺が脱いだままにしてたジャケットを手にしてこちらを見ている。
フランツに言われたからかも知れないけど、確かになんだか不安そうな顔をしていた。
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馨子(プロフ) - かずさん» かずさん、初めまして。コメントありがとうございます。続き、書きます。もうしばらくお待ち下さいませ。 (2020年10月8日 21時) (レス) id: 3d2bd1be2e (このIDを非表示/違反報告)
かず(プロフ) - たまたま見つけて初めから一気読みしてしまいました!続きをたのしみにしています。 (2020年8月30日 19時) (レス) id: 5b90d9c873 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - SARAさん» SARAさん、コメントありがとうございます。更新はします! 中々時間が取れないので超超スロー更新とはなりますが、気長にお待ち下さると嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。 (2020年5月27日 15時) (レス) id: 3d2bd1be2e (このIDを非表示/違反報告)
SARA - たまたま見つけて読み始めたのですが、このお話大好きです!!もう更新はされないのでしょうか?続きを楽しみにしています! (2020年5月27日 10時) (レス) id: 33418b16ef (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - みのりんさん» みのりんさん、コメントありがとうございます。久々の更新でしたのでドキドキしました。また、お会いしましょう。 (2020年4月25日 16時) (レス) id: 3d2bd1be2e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:馨子 | 作成日時:2018年8月25日 11時