I Need To Be In Love

3 atsuto ページ3

みんなが帰ってふたりだけになる。
晩ご飯はいつもの定食屋へ。
俺は晩飯も唐揚げか(笑)？

店へは、先月納車されたAの車で向かう。

スピーカーからはカーペンターズが流れてる。
最近のAのお気に入り。

｢中学の時の英語の先生が、勉強になるって勧めてくれたのがカーペンターズとビリージョエル｣
｢なんで？｣
｢すごく聞き取りやすいって｣

駐車場に着いたら、Aは｢集中｣と言って、音楽のボリュームを落とす。
駐車、苦手ですからね。

｢だから私は軽自動車でいいって言ったのに｣

兄がこの車に決めてしまったのと言って、苦笑いをしていたのを思い出す。

軽なんて事故ったらぺしゃんこだ、曲がりなりにも医者が軽なんて。
そう言って、懇意にしているディーラーへAを連れて行き、このSUVに決めてしまったらしい。
お金を払うのは私なのよ？ とは女医の弁。

｢駐車なんて、車の大きさは関係ないよ。しかも、バックモニター付いてるし｣
｢これ見ると余計に判らなくなるの。ちょっと黙ってて？｣

真剣な顔です(笑)。

教習所で数時間のペーパードライバー講習を受けて、俺の車でも練習した。
鹿島まで来る為に。
俺の為に。

別に、俺が送り迎えするよって言ったら、

｢いい機会だから、自分の世界を広げたい｣

とか何とか。

だけど車庫入れに手こずるようじゃ、まださほど世界は広がってない。




運ばれてきた定食に箸を付けながら、今日の礼を言う。

｢医者とサッカー選手が同じって言われてあいつら｣
｢ん？｣
｢源なんて、ドヤ顔(笑)｣
｢でもほんとよ？ スポーツってすごいよね｣

色んな人に応援してもらってるとは思うけど、その逆はあんまり考えた事がなかった。

｢小児科医になりたかったなんて知らなかった｣
｢…研修始まって、まだほんとに最初の頃、入院してた5歳の男の子が亡くなって｣

箸を置いたAは、その自分の指に目を落とす。

｢私、泣いてしまったら、指導医に言われたの。感情移入し過ぎてはだめだって｣
｢うーん｣
｢でもどうしても無理だった｣
｢…それで小児科医は諦めたの？｣

少し曖昧な笑みを浮かべた。
他にも色々あったんだろう。
悩んで、もがいて。

｢もっと強くなりたくて、ドイツまで行ったりね｣
｢ああ…｣
｢…フランツは、ゲルキルのあの病院に来る前はアフリカにいたの｣
｢え、それって｣
｢国境なき医師団に参加していて｣

・・・知らなかった。

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