愛されメイドの備忘録 (ページ32)

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あまり風邪のひかない主達だった為、久しぶりの事で慌てていればいきなり後ろから両肩に手が置かれた。

『どした？肩に力入ってんで？』

「村上さん…！安田さんが風邪を」

『それはえらいことやな……ん？』

「？」

村上さんは私から手を離すと首を傾げた。

『それほんまに風邪か？』

「え？安田さん他に何か持病が…」

『ちゃうくて…あいつ3日前にも風邪や言うて廊下に倒れとったで』

「じゃあそれが完治してなかった…」

『ほんまにメイドは阿呆か？仮病に決まっとるやろ』

私の手から薬を取ると村上さんは深くため息を吐いた。

『まぁ邪魔すると怒るしな…なんとか乗り切ってくれ』

「本当に…仮病なんですか？」

『廊下で倒れとったヤスにメイドやなくて俺が駆け寄った瞬間、嫌な顔して風邪の看病はメイド以外無理やからって普通に帰ってったわ』

「なんか…安田さんらしいですね」

『すまんけど付き合ってやってくれ』

苦笑いを浮かべた村上さんに見送られ私が部屋に戻ると、安田さんは身体を起こしてスケッチブックに何かを書いていた。

「寝てないと治りませんよ？」

『大丈夫』

水とタオルを机の上に置くと、すらすらと鉛筆を走らせる安田さんのスケッチブックを覗いた。

「また女性ですか？」

『俺は女しか描かへん…てか描けへんから』

「そうなんですね…」

部屋を見渡すと全部似たような女性が描かれていて、どれも笑顔だったり目を閉じて微笑んだりしていた。

「これは売りに出すんですか？」

『喜怒哀楽…』

「え？」

『絵の題名。これで喜哀楽が揃った』

安田さんはあっという間に下書きを描きあげると、大きなキャンパスを取り出した。

「あ…あの…」

『あ、もう体調なら大丈夫やから仕事に戻ってええよ？これでようやく描けるし…』

ベットから立ち上がり、やはり仮病だったのか全然元気よく絵を描く支度を始める。