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庭に出ると花壇には綺麗な花が咲き始め、家庭菜園の野菜も段々と大きく成長してきた。
「良かったぁ…沢山咲いてくれてます!」
『そうやな』
花壇に腰掛けると横山さんは胸ポケットから煙草を取り出した。
「煙草…吸いたかっただけですよね?」
『散歩ついでや』
「煙草休憩しててください。私お水やりに行ってきます」
私は横山さんから離れ如雨露で花の水やりを始めた。
もっと沢山咲いてくれると嬉しいなぁと思いながらしばらく水やりに没頭していた。
ふと顔を上げて横山さんを見ると、何故か横山さんの周りに沢山の蝶や虫が寄ってきていた。
「な…何してるんですか?」
『お詫びに飯やってるだけや』
「お詫び…?」
『煙草の煙は人だけやなくて虫にも悪いらしいねん。やからお詫び』
横山さんに近づくと、持っていたお皿の上にはメープルシロップがあり、蝶が蜜を吸っていた。
「いつも…これしてるんですか?」
『悪いやろ。ここは俺やなくてこいつらのもんや。邪魔してまう代わりにもこのくらい普通やろ…まぁ大倉は絶対せえへんやろうけど』
「横山さんって……虫にも優しいんですね」
『人はお前以外無理やけど』
「私に優しくしてくれるだけでも嬉しいです」
横山さんは離れた場所にお皿を置くと私の手を引いて一緒に腰掛けた。
『ええな…休みの日にお前とこうして居れるって』
「のんびりとしてますね…」
『ずっと…このままがええ』
「そうですね…」
『でもあかんねやろな。ずっとなんて』
「また休みの日にこうやって過ごしましょう?」
『A』
横山さんを見上げると静かに名前を呼ばれ近づいてきた綺麗なお顔。
ゆっくりと優しく落とされる口付けに私は横山さんの腕を掴んで応えた。
柔らかい唇がリップ音をたてて離れると私の肩に頭が置かれる。
「横山さん…お部屋戻りますか?」
『なぁ…ヒナに抱かれたん?』
「え…?」
『休みの日…一晩一緒に過ごしたんやろ?』
「そんな事は…ないですよ」
『ヒナが手を出さへんわけない』
ぎゅっと引き寄せられると横山さんは重くのしかかってくる。
ゆっくり頭を撫でて落ち着かせてあげようとすれば、革靴の音が近づいてくるのを横山さんはすぐに感じとった。
私の手は撫でることなく元に戻ると、身体を離した横山さんが鋭い視線を音のした方に向けた。
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作者名:夜 | 作成日時:2022年2月8日 22時