愛されメイドの備忘録〈２〉 (ページ44)

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〔お疲れ様です。9分45秒…流石でございます〕

『可哀想…両親が醜く死んでもうた』

〔普通の人間であれば…それが正常の反応ですね〕

『笑顔が普通やないの？』

〔人間は恐怖を感じると口角が強張りますから〕

『そんなこと言うたら俺が人間やないみたいやんかぁ…』

〔ほぼ違うと……いえ。気を取り直して報酬です〕

俺の顔を見て慌てて首を横に振った召使いは俺の前に鮮やかな青色のドレスを差し出した。

『ええやん…綺麗やわ』

〔以前ご自分で買われたと伺いましたが〕

『汚れた』

〔さ…左様でございますか〕

『ん。じゃあバイバーイ』

鎌を拭かずにそのまま倉庫の壁に掛けると俺は屋敷の中へと帰った。

『早く着せたいなぁ…』

『お疲れ』

薄暗い広間でカップを持って足を組む横山くんは冷えた眼を俺に向けていた。

『俺は人間やないみたいやわ〜』

『そうか』

『でもメイドも俺も笑顔で幸せやねんで？』

カップを口に運ぶ横山くんはつまらなそうに俺の話を聞いていた。

『まぁ…俺ら自体昔から汚れとるからなぁ笑』

『あ”？』

『え……いや…別に横山くんが…』

真っ黒に染まった瞳と視線が重なると体の自由が効かなくなった。

カップを置いて向かってくる横山くんから逃げようとしても、視線も体も動かない。

『その…あ…』

『俺汚れとるん？』

『あ…い…』

『おい、ブル。練習台になるか？』

『いえ……』

『今ならその空っぽな脳に命中しそうやけどな』

『ノワール様……』

俺を見下げるその瞳は本気だった。

『綺麗なドレスやな』

『あはは…流石です…ゾクゾクします…！』

『はぁ…お前は人間やないわ』

立ち去っていく横山くんの背中を見送ると俺は笑いながらその場に座り込んだ。

この俺が恐怖を感じる人間は横山くんだけ。

殺されてしまう感覚にハマっているのは俺だけやない。

『俺の永遠の憧れや…！』

カランコロンカランコロン耳に響く下駄の音が聞こえてきたらみんなで笑おう。

黄泉の国からきた笑顔の死神に出会ったら最後。

笑ったら綺麗に殺してくれるらしい。

ブルと呼ばれる笑顔を大切にする暗殺者はこの俺やねん。