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『いつでも飲みたくなったら来たらええからな?』
「私…そろそろ部屋に戻らないと…」
『なんか用事でもあるん?』
「あ…部屋の掃除でもしようかなって……」
『これ…飲まへんの?』
「あ、じゃあ一口だけ…」
そう言って差し出されたカップを受け取ろうとすれば、村上さんは紅茶を観葉植物の植木に全てこぼした。
「え…村上さん、?!」
『なら掃除道具でも買ってやろうか?最近はええのがあるらしいからなぁ…』
カップを荒々しくテーブルに置くと紅茶の入った箱を退かしてパソコンを開いた。
『最新のもんがええよなぁ…』
「村上さん…私…」
私は濡れた観葉植物を見つめながら震える手を握りしめた。
何故だろう。
村上さんの背中が怖く感じる。
まるで…私をベッドから降ろさせないようにするために圧を放っているような背中。
ゆっくりとなんとかベッドから降り、パソコンを見つめたままの村上さんから離れるようにドアへと向かっていく。
しかし、途中でストンと私の身体はその場に座り込んでしまった。
『メイド?どしたんや…あかんやろ?無茶したら』
「だ…大丈夫ですから…」
村上さんが近づいてくる。私は何とかドアノブに手を伸ばすが、その手は村上さんによって後ろから掴まれてしまった。
『悪い子やな…疲れとるのに無茶するなんて』
違う。
私を抱き上げた村上さんはそんな事で怒ってるんじゃない。
逃げようとした私に対して怒ってる。
ベッドに座らされると、村上さんの真っ黒な瞳が私を見下ろしていた。
『紅茶飲むか?それとも…部屋から出るか?』
私が選ぶべき選択肢は一つだけだ。
「紅茶…飲みます…」
『ええよええよ、俺のおすすめを今入れたるからなぁ』
震える声で答えると村上さんは嬉しそうに紅茶を入れて来た。
『震えとるから俺が飲ましたるな?』
小刻みに手が震えている私の口元にカップを寄せると少し傾けた。
口の中に広がる甘い口溶けとほろ苦さ。
『美味いやろ?』
「はい…」
『ほら…もっと飲んどき?』
この時私はあの時と同じ現象が起こり始めていた。
ほぼ完飲しかけた瞬間フラッと私の身体はベッドへと倒れて行った。
そして歪む視界の中でただ村上さんが幸せそうに微笑んでいた。
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作者名:夜 | 作成日時:2022年2月8日 22時