207話 ページ7
袴姿の2つの影が伸びる。
全国出場を同じポジションで果たした藤原とAは、静かに談笑を楽しんだ。
藤原「湊がだよ?」
『ふふ、泣くほど嬉しかったんだ。』
今の話の内容は女子の決勝、射詰競射となりピアノ線のように張り詰めたあの中でAが勝った。
その瞬間、藤原の隣でそれを見ていた鳴宮がホロホロと涙を流して笑いながら喜んでいたのだという。
藤原「にしても、俺にとってはなんだか呆気なかった気がする。」
『射詰?』
藤原「うん、もっと打ち合うと思ったけど“1矢”で決着が着くなんて。」
そう、決勝の射詰競射。
Aが勝ったことに変わりはないが、その勝ち方というかなんというか、簡単に言うと本当に射詰かと疑うほど呆気なく終わったのだ。
ーーーー
『………』
石川第一(落ち)「っ、…」
二人の射手だけが佇み、観客はそれを見つめる。
並大抵の人間ならこの圧迫感で腰をぬかすだろう。
それ程までにプレッシャーが選手に襲いかかり、潰そうとのしかかってくる。
さぁ、どんな甲乙付け難い試合となるのかと皆が注目する中、最初の一射が放たれた。
石川第一(落ち)「っ…!(カスッ)」
ハズレ。
自分の弓に自信ありげだった姿勢はぶれぶれ、上下に呼吸で揺れる背中は頼りない。
心と体が揃わなければ中たらない。
その通りで、石川第一の落ちが引いた矢は的から大きくはずれ 垜に突き刺さった。
「カーンッ」
最初からハズレか、と的から視線を逸らそうとした瞬間に 目の前を駆け抜ける蒼い一筋の光。
カーンッ、という甲高い美しい音を響かせた一射はザワつく会場を黙らせ、文句なしのど真ん中を貫いた。
刹那、鳥肌が立った。
残酷なほどに圧倒的
弓道の申し子、と言っても過言ではなかろう
あの子はどこまでいくつもりなのか
ーーーーー
藤原「あの一射、本当にすごかった。」
『……』
あの光景をミリ単位で覚えている藤原は、一つも漏らさずその時のことを説明した。
恐ろしいとさえ思った、でもそれ以上に興奮と感動が自分の中で湧き上がったこと。
すると、頬を紅潮させて話す藤原の隣を歩いていたAは、その歩みをいきなり止めた。
217人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
(名前)(プロフ) - 面白すぎます!応援してます!更新頑張ってください!応援してます!夢主イケメン! (2020年6月10日 19時) (レス) id: 0a80c4d22b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:青 | 作成日時:2019年5月4日 17時