孤児院の虎と箱庭の兎

虎と兎２２「月に雲」 ページ24

〜敦side〜


A「近……な」


Aちゃんが怒りの念を込めて何かを呟いているが、今の僕にはそんなことを気にする余裕はない


どうすればいいんだ……


太宰さんの能力が使えない以上、このままじゃ探偵社の被害が大きくなるのは確実。でも……



Aちゃんを傷つけずに止める方法が分からない


虎の力じゃ、どうしたって傷つけることしか出来ない


どうすれば………



″助け…て……″


後ろから、Aちゃんの声が聞こえた気がして振り向く


けれどそこには誰もいない。Aちゃんは僕の後ろとは反対に、僕の少し前でナイフを振り回している

与謝野さんも近付こうとはするものの、近付けばナイフを向けてくる


僕は何も出来ずに、ただ立ち尽くすことしか出来なかった


せめて……何処か、隙が出来てくれれば……動きを抑える事が出来るのに……


そんな僕の気持ちに、神様が同情をかけたのか、それともたまたまなのか、Aちゃんの動きが止まった


ふと、何故か窓に目がいった



太宰「………雲」


A『私の異能【兎の眼】は、私の知る限り、月の出る夜に″もう一人の私″を呼び出す能力です』


彼女が自分の過去を話したときの言葉が頭に浮かんだ


彼女は云ってた。月の出る夜に能力が発動すると………


そして思い出した。彼女が暴走する前、僕は……


敦『綺麗だ……』


僕は月を、見たんだ


そして今窓には、月が……月の光が……


雲に隠れていて見えない


彼女の能力は、月が出ているかどうかで能力のパワーが決まるんだ


太宰「敦君！！今のうちに彼女を！」


太宰が荒げた声にハッとし、慌てて近くにあったロープを手に、彼女の元へ駆け寄る


敦「………ごめんね、Aちゃん……」


強く絞めすぎて痕がつかないように、優しく、けれどいつ月が出るか分からないから、素早くAちゃんの体にロープを巻く



太宰「敦君…」

与謝野「敦…」


………後ろで2人のニヤニヤとした視線が痛い


何でこの二人(特に太宰さん)は、僕の事をこんなにからかうのが好きなんだろう………


敦「そ、そんな事より、どうして太宰さんの異能が効かなかったんでしょうか…？」


話を逸らそうと、さっき気になったことを聞いてみる


太宰「それは……私の異能の不便な点だね。

私は、異能を使っている本人か、異能で作り出したもの以外には、触れても全く意味がないのさ。要は、Aちゃんの体を遠隔操作してる人が別にいると考えるべきだね」

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