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「お兄さんの家は?」
「ここからすぐだけど・・・」
「それなら行ってみよう。何かがあったのかもしれない」
「う、うん!!こっちだよ!!」


Aに手を引かれながら走り、彼の兄の家に向かった。走って、数分の所に彼の兄の家はあった


杜若(かきつばた)・・・」


表札にはそう書かれていた


「取りあえず、ピンポン押すね」


インターホンを鳴らしたが、嫌な予感が示す通り、誰も出て来なかった


「入ろう」
「え、でも、鍵掛かってるんじゃないの?」
「閉まっていても、窓やガラスがあれば入れるさ」


強行突破を視野に入れていたが、玄関のドアは鍵が掛かっていなかった。音を殺して入った家の中は静まり返っていて、嫌な予感を増幅させる


「・・・僕から離れるなよ」
「う、うん・・・」


Aを後ろに隠しながら、室内に足を踏み入れた。最初の扉に当たり、その扉のノブに手を掛ける。ゆっくりと僅かに開けて、中を確認する

中を確認すると、うつ伏せで倒れている誰かの足が見えた

この先の事を想像して、Aを待たせようとも思ったが何があるか分からない場所に、一人で置いて行きたくはなかった


「A、携帯を持っていろ」
「え・・・、うん、分かった」


すぐに連絡が出来るように携帯を握らせ、部屋の中に入った


「これは、」
「お兄ちゃん!!」


僕が理解するよりも先に、Aが倒れている誰かに駆け寄った


「しっかりして!!」


彼が声を掛けているけれど、反応がない。背中に刺さっている包丁が原因と言えるだろう


「まだ息はある。救急車と警察に連絡するんだ。出来るだけの応急処置はする」
「分かった・・・!!」


彼に連絡を任せて、処置が出来そうなものを探した。包丁は抜かない方が良い。それでいて、出血を少なくする


「あ、あと五分で来るって!!」
「ああ、分かった。Aも手伝ってくれ」
「うんっ」


救急車が来るまで、延命処置を出来る限り行ったが、あれで生存が確定される訳でもない。泣きそうな顔をしているAを横目に、そんな事を考えていた


「僕達も行こう」
「うん・・・」


元気をなくした彼と共に、彼の兄が運ばれた病院に向かった

手術中のランプの前にある長椅子で、静かな時間を過ごす

助からないかもしれない、その事実が彼の事を押し潰そうとしていた。彼の恋人達が、彼のもとから去って行ったように、彼の兄も彼の傍からいなくなろうとしていた

僕から彼を励ますような言葉は出なかった

殺しても死なないような奴らが恋人だったのに、その全員がAのもとからいなくなった

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作者名:空白可能 | 作成日時:2023年3月27日 23時

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